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視線 ~13~

Category*『視線』
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10月中旬、連休の中日。
三度目のデートの場所はお台場だった。

どこに行きたい?と花沢類に問われ、プラネタリウムと答えたあたし。
すると、彼はお台場にある科学館の名を挙げた。

当日は、初デートでプレゼントされたワンピースを着て行った。
生地が柔らかくて、肌触りがよくて、とっても気に入ってるの。


プラネタリウムでは、精細な立体映像の素晴らしさに胸を打たれ、言葉を失った。
上映終了後、興奮気味に映像美を褒めちぎっていると彼は言った。

「次は本物を見に行こうか」
「うん!」

そんなふうに、二人の未来を示されると嬉しくて仕方ない。
あたし達の関係が、これからも続いていくものなんだって安心できるから。



その後、彼には、例の言葉の真意を確かめていない。
それがどのような心理から発された言葉なのかは分からないままだ。

『俺にとって、牧野はそういうのじゃない』

確かめるべきだと分かっていたけど、訊くのは躊躇われた。
望まない答えが返ってくるのが怖かったから。
不用意な質問で、自らこの均衡を崩してしまうようなことはしたくなかった。



科学館を出てからもブラブラと辺りを散策し、足安めにとカフェに入る。
飲み物をオーダーした後、あたしは花沢類に断ってレストルームに向かった。

個室に入ってすぐ、甲高い声で談笑しながら女の子達が入ってきた。
声から察するに同世代の二人組。
彼女達は個室ではなく、パウダールームを利用する目的だったらしい。

「さっき店に入ってきた人、見た!?」
「二度見しちゃった! 何あのカッコよさ。国宝級なんだけど…っ」
「芸能人かモデルじゃない?」
「眼福だよね~。このカフェに来てよかったぁ!」


こ、国宝級って…。
もしかしなくても花沢類のことだよね…?

今日も行く先々でたくさんの視線を感じた。主に女性のね。
本人には全然そんな素振りがないのに目立ってしょうがない、という感じだった。

当然ながら、隣にいるあたしもその視線を浴びる。
浴びるというか、刺さってる。痛いほどに。
デートの間、あたし達はずっと手を繋いでいるから。

すると、視線は物言わぬくせに実に多くを語るのだ。
え? あんたが彼女なの?と…。



「彼女いるみたいだったね。まぁ、当然か」
「…でもさぁ、女の方はすごい地味じゃなかった? 隣見て、コレ?って思ったし」
「あはは。あたしも同じこと思ったし」

声にはおよそ遠慮がない。
その『彼女』がここにいることなど露知らず、二人はトークを展開していく。

「あぁいうのを何て言うんだっけ。えーと、…かく…」
「格差カップル?」
「それそれ! あんだけカッコいいなら、もっといい女がいるだろうにね」
「女見る目がないんだよ。いい男にありがち」

あたしは個室から出るに出られず、じっと彼女達の話を聞いていた。
リアルタイムの容赦ない酷評に、気分は果てしなく沈んでいく。


そうした声を聞いたのが初めてだったわけじゃない。
それこそ英徳ではあたしへの悪口はよく耳にしたし、今でも何かと風当たりは強い。
なぜ、庶民のあたしが、あの花沢類に選んでもらえるのか、と。

でも、英徳以外の場においても、あたしの評価は英徳内とさほど変わらないことを知って、改めて落ち込んでしまったのだ。
加えて、花沢類の評価も貶めてしまっているようでそれも心苦しい。



彼女達が退室するのを待ってからレストルームを出ると、ずいぶん時間が経ってしまっていた。席に戻ると飲み物はすでにサーブされていて、グラスの外側は水滴だらけになっている。

「遅かったね」
「…ちょっと混んでて。待たせてごめんね」
「いいよ。…これから行くとこだけどさ」

花沢類がこの後の予定を話す。
あたしは曖昧に相槌を打ちながら、彼の話を聞いた。

氷が融けて薄まったアイスコーヒーを口に含む。
味はよく分からず、冷たさだけを感じた。
喉がカラカラに乾いていたはずなのに、渇きが癒された感覚もどこか希薄で。
あたしは、先ほど立ち聞きしてしまった自分への評価をすごく気にしていた。



あたしって、そんなにダメかな。
身なりはきちんと整えている。今日は彼にプレゼントされた服だったし。
清潔感も大事にしているつもりだ。

メイクはしてない。家計的にコスメにお金をかける余裕がないから。
日焼け止めだけは塗るようにして、あとは色付きのリップを塗るくらいで。
だから、地味? 女の子らしさが足りない?
いや、そもそもあたし程度の素地じゃ、何をどうやっても無駄なあがき?

可もなく不可もなし。
それがあたしだから…。


「…どうした? 疲れた?」
「…えっ。あっ、ゴメン。ちょっとボーッとしちゃった」
「時間ないし、そろそろ出ようか」

花沢類に出発を促され、内心で悶々としつつも、あたしは笑顔を浮かべた。
彼は夕方から用事があるらしく、一緒にいられるのはあとわずかだ。
そうだね、と同意して、あたしはわずかに残ったアイスコーヒーを飲み干した。


会計を終えてカフェを出ると、アスファルトの強い熱気が立ち上っている。
10月も半ばを過ぎるというのに、今日は思いのほか日差しが強くて暑い。

「ん」

花沢類があたしに手を差し出す。
それをとても切ない思いで見つめた。
遠慮がちに差し出した手を優しく取られ、あたし達はまた歩き始めた。



ずっとその手に触れたいと思っていた。
いったん触れてしまえば、もう離したくないと思えるほど。

好きだよ。
本当にね、大好きなの。


だけど、あたし、花沢類の隣にいていいのかな?
地味で、平凡で、何の取り柄もなくて。
隣にいるのが静さんだったら、あんなこと言われないだろうに。

はぁ…。
また負のループだ。

不毛な思考が脳内を侵食しかけた時だった。
ベンチに腰掛けた子供に目が留まる。

「あれ? あの子…」






いつも拍手をありがとうございます。
レストルームの一件、つくしには災難でした。マイナーモードが続きますが、もちろん挽回していきますので、よろしくお付き合いのほどを…(;^_^A
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