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視線 ~16~

Category*『視線』
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花沢類はビックリしていた。
顔を見るなり、あたしが泣き出してしまったから。

「どうした?」

あたしは首を振る。
止めようとするのに、涙は後から後から溢れて全然止まりそうにない。


動けないあたしの手を取り、花沢類はあたしを音楽室に引き入れた。
両手の指で必死に涙を拭っていると、ふわっとした温もりに包まれる。
彼が、あたしを抱きしめていた。

「スッキリするまで泣いちゃえば?」

彼の胸に引き寄せられ、頭を撫でられて、そう促される。
あたしは急激に高ぶったこの感情を、自分でも持て余してしまっていて。
彼にしがみついて、思いっきり泣いた。


他の女の子に優しくしないで。
触れたりしないで。
あたしだけの、あなたでいて。
心に芽生えた独占欲は、自分でも驚くほどの強さだった。

束縛を強めたところで、彼には窮屈だろうって思うのに。
あたしなんかに、そんな権限ないのに。




彼は無言のまま、あたしの背を撫でていた。
トクトクという穏やかな鼓動を、頬で直に感じ取る。
そうした規則正しい動きに、次第に心が凪いでいくのが分かった。

「…落ち着いた?」

ようやく泣き止んだ時にはもう5限目が始まっていた。
あたし達は音楽室の端に立ったままで、ずっと抱き合っていた。

コクンと頷いて、体を離して。
スンと鼻を鳴らしながら、最後の涙をハンカチで拭き取る。

「話して。涙の理由」
「………うん」



手を引かれて背もたれのない丸椅子に座り、彼と向かい合った。
彼の顔を見ることができずにうつむくと、また涙が出そうになる。
あたしはポツポツと話し始めた。

一昨夜のパーティーで、花沢類がエスコートした女性の写真を見たこと。
日頃からのコンプレックスが刺激されて落ち込んだこと。
更には、道明寺から聞いた花沢類の発言についても…。



「…花沢類は、いつも優しいんだけど、…あたし、自分に自信が持てなくて…」

話している間にも、また涙が浮かんでくる。

「…何かある度に、…水族館で見たハコフグのこと思い出して…」
「え?」
「…花沢類があたしに求めてるのは、…マスコット的な癒しなのかなって…」
「それ、どんなの?」

あたしは、水槽の中をふわふわと泳いでいた黄色いフォルムを思い出す。

「…恋人とか、彼女とか、…そういう甘い存在じゃなくて。…近くに置いてたら、ちょっと心が和む、…マスコットみたいなものかもって…」
「……………」
「…ごめん。泣いたりして。…面倒よね、こういうの」

あたしはハンカチで目元を押さえる。
花沢類はしばらく無言だった。

…図星、だったのかな。
そうだとしたら、あたし、立ち直れないんだけど…。




「…なんか、いろいろ誤解があるから、結論から先に言う」

花沢類は、膝の上に置いたあたしの両手をそっと包む。
あたしは思わずビクッと震えてしまった。
極度の緊張で冷たくなった手を、彼の温もりが和らげていく。

「牧野が好きだよ。…ちゃんと言葉にしてなかったけど、すごく大事に思ってる」


本当に?
あたしのこと、好きだって言ってくれるの?


「一昨日の予定を話さなかったのは、完全に俺の落ち度。必要ない情報だと思って。だけど今度からちゃんと言う。周囲から変に歪曲された情報を与えられたくない」

彼が饒舌になる。空港の時と同じで。

「俺がエスコートしてたのは取引先の娘。会社の付き合い上、どうしてもそういう役を振られることはある。そこは理解してほしい。でも俺の本意じゃないから」

あたしは頷くので精いっぱいだ。



「司に言ったことを牧野が知ってるとは思わなかった。すぐ俺に確認してくれたらよかったのに」
「ちょっと……動揺が大きすぎて、訊けなかった」
「女として見てないって意味で話したんじゃない。むしろ逆の意味で言ったのに、司の奴…」

逆の意味って?

「牧野に触れたいって思ってるよ。俺も男だからそういう欲求は人並みにある。………だけど、牧野への気持ちはまだ過渡期にあってさ。そこに目をつぶって衝動的に求めるのは、なんか……間違ってる気がして」

つまり、発展途上ってことなのね?

「もう少しだけ待って。俺、もっと、もっとあんたを好きになる。…遊びだとか、一時的だとか軽い相手として見てるんじゃない。むしろ、俺なりに、すごく真剣にあんたとの付き合いを考えてる。…あれは、そういう意味で言ったつもり」



花沢類の瞳は美しく澄んでいた。
いつもは多くを語らない彼の気持ちが聞けて、あたしは胸を熱くする。



「だから、誤解しないで。俺のこと、信じていて。…言葉足らずで、不安にさせてごめん」
「うぅん。あたしこそ早く訊けばよかったのに、どうしても怖くて…」
「何でも話して、不安なこと。俺、全部答えるから」
「…うん…」

花沢類は、あたしのこと、ちゃんと考えてくれてる。
大事だって思ってくれてる。
それが分かって、やっと笑顔を浮かべることができた。



安心したせいかな。
グーッとあたしのお腹が鳴って。恥ずかしいやら何やらで。
二人で顔を見合わせて笑った。

「お昼にしよう」
「うん!」






いつも拍手をありがとうございます。
次話はIntermissionです。どうぞお楽しみに!

盆休みの数日間、帰省してリフレッシュしてきます。次の更新は8/16とさせていただきます。少し間が空きますが、よろしくお願いいたします。
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2 Comments

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2019/08/10 (Sat) 00:24 | REPLY |   
nainai

nainai  

ゆ様

おはようございます。コメントありがとうございます。
いつも温かいメッセージに励まされています(*^-^*)

この時点で、付き合い始めて1ヶ月半。つくしはずっと言えずにいたこと、疑問だったことを類に確かめました。そのとき類が何を思っていたのかを、次回Intermissionで明かします。
まだまだ青いばかりの二人ですが、ゆっくりステップアップしていきますので、温かく見守っていてくださいね。

ご心配ありがとうございます。盆休みは南下するので、交通の便に影響がありそうです💦 運が良いことを願って…。

2019/08/10 (Sat) 07:02 | REPLY |   

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