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Intermission ~3~

Category*『視線』
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次のミステイクは、三度目のデートの日のこと。
俺の判断ミスが牧野を誤解させ、悩ませる結果に繋がった。

その日はお台場にある科学館を中心に、界隈を牧野と散策した。
女の子の迷子騒動があり、プラン通りにはいかなかったが、別れ際の俺達はとても満ち足りていた。


牧野を最寄り駅まで送り届けた後、会社の取引先主催の創立記念パーティーに出席した。約束の時間に遅れたことで、身内からは軽い叱責が飛んだ。
気の進まない仕事ではあったが、父の至上命令にて取引先の娘をエスコートする。

年齢は一つ下。牧野と同い年。
名前は事前に聞かされていたが、もう忘れてしまった。
憶えているのは、彼女が身に纏っていた甘い香りのオードパルファム。

その一件を話すのが嫌で、俺は牧野に仕事のことは言わずにいた。
だけど、この判断が誤りだったと知るのは連休明けのこと。



週明けは連休中の好天が嘘のように気温が下がり、朝から雨が降り続いた。
俺達は音楽室で待ち合わせをしていた。
だが、昼休みになっても、牧野がなかなか姿を見せない。

ようやく足音が近づいてきたと思ったら、それが入口で止まってしまう。
怪訝に思って迎えに出ると、牧野が難しい顔をして立ち竦んでいた。
声をかけた次の瞬間、彼女の瞳からこぼれ落ちたのは大粒の涙…。


音楽室に引き入れて、そっと抱き寄せて。
泣いちゃえばと促せば、牧野は俺にしがみついてきた。

うっ、うっという彼女の小さな嗚咽が、俺の感情を揺らす。
それはもう、ぐらぐらと。


ようやく泣き止んだ彼女から、涙の理由を聞く。
そして、驚く。

自分なりに彼女を守っている気でいた。
だけど、認識が甘かった。
残念ながら、俺の牽制は不十分だったようだ。
牧野を取り巻く環境には、悪意に満ちた視線があまりに多すぎる。

俺と司のやり取りを彼女が知っていたという事実も併せて知る。
そして、再び飛び出した『ハコフグ』という単語。
挙句の果てには、牧野にこんなことまで言わせてしまった。


「…花沢類があたしに求めてるのは、…マスコット的な癒しなのかなって…」


全くもって驚いた。
なぜ、そのような解釈に行き着いてしまっているのか、と。

俺達はうまくいっているんだと思っていた。牧野が、笑顔の下で様々なことに思い悩み、苦しい気持ちを抱えていたことに気付いてやれなかった。
改めて、己の不甲斐なさが身に沁みる。

振り返ってみれば、牧野に自分の気持ちをはっきり告げてこなかったことに思い至る。彼女ならば察してくれるだろうという希望的観測で、俺はいつも大切な言葉を惜しんでしまっていた。


思ってるだけじゃ伝わらないよな。
ちゃんと言葉にすることも大切だよな。


自分の中にある彼女への想いは、もうしっかりとした形になっている。
今、これを告げない手はなかった。




好きだ、大事に思ってると言えば、牧野の瞳が大きく見開かれた。
触れたいと思ってると言えば、彼女の頬が淡いピンクに染まる。

なんでそんな、“意外なことを聞いた”って反応な訳?
俺の好意、ちょっとくらいは感じてくれてたろ?

…でも、彼女はいつもそうだった。
俺への想いを素直に表してくれるのに、それでいて俺に対しては強く求めない。
“好きになって”ではなく、“好きになってくれたら嬉しい”みたいな。

なんで、いつまでも、そんな謙虚なんだよ。
少しくらいワガママになったって構わないよ。
俺にできることなら、叶えてあげたいと思ってるよ。



牧野に触れてみたい。
それが静に抱いていた強い情動と同じかと聞かれれば分からない。
俺も男だから、当然ながら性欲はある。
だけど、触れたいのはセックスへの興味本位からじゃない、という見極めがまだ。

でも、牧野への想いはなんとなくその次元になく、心の奥のもっと深い部分にある。
彼女との間にある、見えない力で繋がっているあの特別な感覚に、俺はひどく満たされてしまうんだ。

一緒にいて心地よくて、安らげて、満たされる。
ただ、ただ、大事にしたいんだ。
初めての感情なんだよ。



…つまりは、それが“愛しい”って気持ち?



もう少しだけ、待ってて。
自分で正しく見極めたい。

俺の心の動きが、相手が牧野だからということに確信を持ちたい。
他の誰でもなく、彼女が好きで特別で、だから触れたいんだっていうことに。




ようやく、牧野が笑ってくれた。
まだ涙目の、その笑顔に胸がぎゅっとなる。

もう、彼女の涙は見たくない。
それだけは俺の絶対事項だ。







いつも拍手をありがとうございます。類が自分の気持ちを表したことで、つくしとの間にあった認識のズレは概ね解消されたという回でした。

さて、しばしのご無沙汰でした。盆休み中は旧友達と再会し、とても楽しい時間を過ごしました。再び日常に戻り、仕事&育児&執筆を頑張っていこうと思います。
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