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視線 ~17~

Category*『視線』
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デートでは割り勘にしようと言った気持ちは今でも変わらない。
だけど、切実な問題があたしを苛むようになった。

急速に秋めいていく10月下旬。
花沢類と次はどこに出かけるかという話になり、あたしはふと我に返った。

…お小遣い、どれくらい余裕あるっけ?


月々のお小遣いはもともと3000円。だけど、それではすぐ金欠になってしまうので、あたしはバイトの時間を増やした。
家計状況を考えると、お小遣いUPは期待できないから自分で頑張るしかない。

それでも、使えるお金はあまり増えていない。
家計の助けになればと生活費に充てているし、学校では何かと物入りだし。
バイト先は働きやすい環境だけど、時給があまりよくないんだよね…。



「…牧野?」

ランチタイム。
あたし達はいつもの場所で隣り合い、校舎の壁に背を預けて座っていた。
どうした?とばかりに顔を覗き込まれて、心拍数がぴょんと跳ね上がる。
間近で目線が合い、ドギマギしながらも、あたしは情けない懐事情を明かした。

金欠?と、彼は透き通った瞳をパチクリとさせて、小首を傾げた。
あ。その表情、可愛いな。


「つまり、お金のかからないデートならいい?」
「うん…できれば…」
「じゃあさ…」

花沢類はある提案をする。
それなら確かにお金がかからないし、二人でのんびりできる。

で、で、でも…。

あたしは躊躇する。
ホントにその言葉に甘えちゃっていいのかな…。





「おうちデート!!」

千石屋のカウンター内にて。
あたしの話を聞いた優紀が、きゃあっと黄色い声を上げる。

「声! 声大きいって!」
「あはっ、ごめん。ついにお呼ばれするんだと思ってさ」

あたしは頷く。
嬉しくて頬がゆるむのを抑えきれない。

「うちで映画でも観る?って誘われて…」
「さらに一歩前進だね。花沢さんの家族に紹介されるのかな?」
「あ、うぅん。ご両親はずっとフランスでお仕事をされてるみたいだから…」

優紀は円らな瞳をさらに丸くする。


「じゃあ、何? 彼の部屋で二人きり?」
「え? お手伝いさん達がいると思う…」
「そんなの、ノーカンでしょ!」

うふふっ、と意味深に優紀が笑う。
手招きされるままに少し屈むと、優紀がそっと耳打ちしてくる。

「どーする? そのとき、花沢さんにモトメられたら…」
「えぇっ?」

も、も、求められてって…。
そんな急展開はないんじゃないかなぁ…。
あたし達の間には、いま一つ、そうした男女の雰囲気は流れないもん。




その夜のバスタイム。節水のため半分しか湯の張られていない湯船につかりながら、あたしは悶々としていた。

付き合い始めてもうすぐ2ヶ月。
あたし達の距離は、最初に比べたらぐっと縮まったと思う。

少し前に、音楽室で今の想いを打ち明けてくれた花沢類。
彼に好きだよ、大事だよ、と言われてすごく嬉しかった。…でも、その『好き』がもっと特別になってから次のステップを踏みたい、と言われたの。

彼の中に、まだ静さんへの想いが残っているのを感じた。
あたしは、曖昧さを良しとしない、彼のその姿勢をとても誠実だと思う。
だけど、切なく感じてしまうのも事実で…。



知ってるよ。
あなたが、静さんにとても熱い気持ちを抱いてきたこと。



夏下がりの午後、静さんのポスターにキスしていた彼の横顔を覚えている。
その想いを遂げようとした船上の夏夜のことも。
たった数ヶ月前のことだ。

あたしへは、それと同じような熱い思いは抱けないのかも…。
そう思うと、やっぱり不安になる。彼の中で静さんの存在は絶対的で、いつまでも心の中に残り続けるんだろうと思うから。


あたし、待ってていい?
そうしたら、ずーっと先のいつかは、あの静さんより好きになってもらえるかな?
それとも、花沢類のNo.1は永久欠番だったりする?



お湯の中でゆらゆらと揺れて見える自分の体を見下ろす。
胸も尻も薄い割に、腰にくびれはない。
このところ無駄な出費を抑えるために、強制ダイエットになってるし…。

あまりにも中性的な体つきに、ため息しか出ない。
ほんと、あたしっていいとこないなぁ…。

「…クシュンッ」

うぅっ。出たのはため息だけじゃなかった。
すっかり温んだお風呂からはもう出ないと、逆に風邪をひいてしまいそうだ。






いつも拍手をありがとうございます。
お話が進んできたので今夜からアイキャッチ画像を変えました。画像を選ぶのは楽しいけれど、イメージとのマッチングが難しいです💦
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