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視線 ~19~

Category*『視線』
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ミステリーの舞台はイングランド・リバプール。
でも、ロケ地はアイルランドのダブリンだよ、と彼が教えてくれる。
主人公達が通っているカレッジは、実はアイルランド最古の国立大学なんだって。
花沢類は物知りだなぁ…。


映画はとても面白かった。
美しい街並みのワンカット。
サウンドミュージックも素敵。

手に汗握る急展開。
奇妙な間。
主人公に忍び寄る危険…。

用意された軽食も、珈琲も、とても美味しくて。
あたし達は、まったりとしながら映画鑑賞を続けた。



映画がクライマックスを迎えるより早く、花沢類がポツリと洩らした。

「犯人分かったかも」
「あっ、言わないで。まだ考えてるから…」

あたしは答えを聞きたくなくて、慌てて言葉の先を制した。
暗がりの中、隣の彼を見上げれば、意地悪な笑みが浮かんでいる。

…嫌な予感。

「さっきのシーンで」
「あっ…ちょっ…」
「主人公がさ…」
「もうっ。ダメだったら」

あたしは思わず花沢類に縋って、その口元を手で押さえていた。
勢い余って、ソファに彼の体ごと押しつけるような形になる。
ホントにね、咄嗟の行動だったの。



驚いたような彼の瞳を間近に見て。
指先に、唇の柔らかさを感じて。
あたしは瞬時に我に返って、身を起こした。


「あのっ…ごめん…ね…」


慌てて手も引っ込めると、その手を優しく取られる。
再び目が合うと、彼の視線が熱を帯びていることに気付いた。
彼を纏う雰囲気が変わっていく―。


すぅっと近づいてくる花沢類の顔を、硬直したまま見つめていた。
あたしの世界から、急速に、音が遠のいていく。


「…いいの?」
「え?」
「目、開けたままで」


慌てて瞼を閉じると、顎をそっと持ち上げられた。
その理由を考える間もなく。
あたしの唇に、温かな感触が優しく押し当てられた。


もうビックリで。
だけど、すごく嬉しくて。


二度、三度と彼の唇が離れて、またすぐに重ねられる。
チュッという小さな音は、あたしに実感を与えてくれた。


夢じゃないよ。
キスしてるんだよ。
ずっと、ずっと恋焦がれてきた、あの花沢類と―。




「牧野…」

ごく至近距離で彼の声を聞く。
薄く目を開けると、美しい唇が間近に見えて、一層ドキドキした。

「…もっと、していい?」

そう断ってくれたのは、たぶん彼の気遣い。
あたしが、今の段階でもいっぱいいっぱいだったから。

大きな手があたしの首筋に触れる。
体の中のザワザワが大きくなっていく。



彼を好きだという想いが、体じゅうに満ちて。
本当に、どうしようもないほどに。
溢れて、溢れて、溢れてしまうんだよ。



あたしはゆっくりと瞳を閉じた。
やっとのことで声を絞り出す。

「…いいよ…」

首筋を撫でていた手が頭の後ろに回り、ぐっと引き寄せられた。
重なった唇の隙間から温かな感触が侵入してきて、あたしの舌先に触れる。


最初に感じたのは、苦い珈琲のフレーバー。
彼のために準備されたのはエスプレッソだったことを思い出す。


強張っていた体から、ふにゃりと力が抜けて。
気が付けば、ソファに押し倒されていて。


彼との初めてのキス。
温かくて、ほろ苦くて、息もできないような。

そして、何だろう?
これ、気持ちいいっていう感覚だよね。

花沢類ってキスが巧いんだ…。
ぼぅっとした頭の隅でそんなことを思った。




唇が離れた一瞬に、彼を見上げてあたしは言う。

「……好き……」

それ以外の言葉を持たないあたしは、たった2文字を伝えるだけで精いっぱい。
返ってきたのは優美な微笑。そして―。

「…俺も好きだよ…」

あぁ。
また好きだって言ってもらえた。


あたし達は微笑み合い、もう一度、唇を重ねた。


彼と一緒にいられる。
これ以上の幸せなんてないと思った。






いつも拍手をありがとうございます。応援を励みに頑張ります。
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2 Comments

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2019/08/22 (Thu) 05:00 | REPLY |   
nainai

nainai  

ふ様

こんばんは。嬉しいコメントをありがとうございます(*'▽')
盆が過ぎて、暑さはやや和らいでいる感じがありますね。四季の中で一番好きなのは秋なので、これからの季節の移り変わりを楽しもうと思っています。

さて、物語はひとつの節目を迎えました。双方の『好き』の気持ちがようやく釣り合うようになってきたんですね。類からつくしに向けた想いは着実に大きくなっています。

今回は10代の恋を本人視点で描いているので、どうしても視野は狭くなりがちです。まだまだ青く焦れったく二人のやり取りが続きますが、最後まで繋ぎますので、よろしくお付き合いくださいませ。

2019/08/22 (Thu) 18:54 | REPLY |   

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