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視線 ~20~

Category*『視線』
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あたし達はキスを交わした。
長く、深く。

やがては唇を離して、熱く見つめ合う。
彼が、あたしの目元や頬にもキスを降らせるからくすぐったい。
じゃれ合いの後には、もう一度、唇を重ねた。


夢のような時間から二人を現実に引き戻したのは、突然鳴り始めた彼のスマートフォン。最初、花沢類はそれを無視しようとした。だけど、相手は諦めなかった。
彼はしつこく鳴るスマートフォンを手に取ると、一瞬にして嫌そうな表情を浮かべて応答した。ソファから立ち上がり、離れていく。

あたしもゆっくりと体を起こして、手櫛で髪の乱れを直した。
心臓はバクバクと波打ち、呼吸はなかなか整わなかった。



「…先方は何と?」

不機嫌を隠さない低い声。
それでも、しばらく無言が続いた後、「分かりました」と彼が応えた。
いい話でないことは明らかだった。
花沢類は小さくため息を吐き、ソファに戻ってきた。



「…ごめん。用事ができた」
「いいよ。あのっ…あたし、一人で帰れるからね」
「いや、馬場に送らせる」

スクリーンはエンドロールを流し、いつの間にか映画は終わってしまっていた。
結局、犯人は分からずじまいだ。
花沢類はおもむろにあたしを抱き寄せると、耳元でこう言った。

「映画の続きは今度観よう」
「うん…」
「まだ一緒にいたかったのに、ごめん」
「うぅん。今日はありがと。すごく楽しかったよ」

おずおずと彼の背を抱くと、ぎゅっと抱きしめ返された。
その背がとても広くて。その腕が力強くて。
自分とは違う体躯を意識すると、ドキドキして仕方なかった。



花沢類はあたしを玄関まで見送り、「また学校で」と言ってくれた。
来た時と同様、松川さん達も並んで一礼をする。
あたしも頭を下げ、玄関の外で待っていてくれた馬場さんとリムジンに向かった。

「あの…、運転手さんは何人いらっしゃるんですか?」
「三人でございます。類様の送迎は別の者が担当いたしますので、ご心配には及びませんよ」

何の気なしの質問にも、馬場さんは微笑みながら丁寧に答えてくれた。


リムジンは出発する。
車窓から暮れていく空を見上げながら、あたしは小さくため息を吐いた。

彼と初めてキスをした。
その喜びより、先ほど見た彼の憂い顔が気がかりで。

「…訊けばよかったな」

あたしは無意識に呟いていた。
あの場で訊けばよかった。
電話の相手が誰なのか、用事は何なのかって。






祝日を挟んだ週明け、花沢類は学校に来なかった。

『ごめん。しばらく学校を休む。所用でフランスに行ってくる。』

メッセージが送られてきたのは、あたしが起きる少し前だった。
それが彼のいつもの起床時刻よりずいぶん早いことから、何かあったんだと暗い気持ちになる。そして、やっぱり詳細は書いてなくて…。


「あらっ。今日はおにぎり作らないの?」

花沢類のおにぎり弁当の分、ご飯は多めに炊いてもらっている。あたしはそれをバイト先で食べる間食だとママに説明していたので、慌てて言った。

花沢類との交際については、家族にはまだ内緒にしてある。
だって、話したら変に大騒ぎしかねないし…。

「あ、今日はいいの。…ゆ、優紀とお茶する予定だから」
「セットする前に言いなさいよ。冷ご飯が増えるでしょ! 冷凍すると美味しくないんだから!」

ぷりぷりと怒るママにはおざなりに謝ると、手早く身支度を整えて家を出た。
朝の空気がだいぶ冷たい。
今日は終日曇りだ。肌寒い一日になるだろう。
あたしは鈍色の空を眺めて大きく息を吸い込み、一気に吐き出してからバス停へと向かった。



花沢類が学校に来なくても、あたしは昼休みになると非常階段に行く。
相変わらず、教室にもカフェテリアにもあたしの居場所はないから。
物理的な意味じゃなく、精神的な意味でね。
…そういうのは、もう慣れっこだけど。

ここが花沢類のテリトリーであることは周知の事実。
一般の生徒がここを通路として利用することはまずない。
だから、ドアがガチャリと音を立てて開いたとき、彼がやっぱり来てくれたのかという淡い期待で、開けた主を見上げてしまった。
でも、それは違っていた。

「…やっぱり、ここか」

ドアから顔を覗かせたのは美作さんで。

「今、話せるか?」
「行儀悪いけど、お弁当食べながらでもいいなら…」
「OK」

美作さんは少し距離を取って、あたしの近くに座る。
癖のある前髪を指先で整え直し、美作さんはスマートに笑って話し始めた。






いつも拍手をありがとうございます。
世話焼きのポジションにより、あきらが頻出します(;^ω^)
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2 Comments

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2019/08/24 (Sat) 11:09 | REPLY |   
nainai

nainai  

ゆ様

こんばんは。いつもコメントありがとうございます♪
嬉しいです(*^^)v

甘い時間から一転、類には何らかのトラブルが舞い込みます。
敢えて説明をしない類。訊くに訊けないつくし。
まだ相手への遠慮がある二人です。

次話では、二人の交際に協力的なスタンスのあきらが登場です。
あきらは癖が強くなく書きやすいので、個人的にはお気に入りです。
どうぞ、お楽しみに(^^♪

2019/08/24 (Sat) 21:20 | REPLY |   

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