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視線 ~21~

Category*『視線』
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美作さんが持ってきた情報はあまりいいものではなかった。

「以前、生徒の間でお前達のデート写真が出回ったことがあったろ? あれと同じことが今度はネット上で起きてる」
「…ネットで?」
「俺ら4人の情報を交換し合う、アンダーグラウンド的な交流の場があるんだ」

まさかファンサイト? そんなものがあるの?
懐疑的な目を向けると、美作さんは自分のスマートフォンを操作し始めた。
ある画面を呼び出して、あたしにそれを差し出す。


「ほれ」
「…何、これ…」


画面をスクロールしていけば分かる。
彼らが、いかに多くの人々の関心を集めているのか。
さながら芸能人のような注目度で。

投稿記事はF4の目撃情報が主だった。それもリアルタイムの。
ときどきは画像もあり、すべてが隠し撮りだった。
こうしたことは日常茶飯事だ、と言った美作さんの言葉を思い出す。



「うちの会社のサイバー部に頼めばサイトは潰せる。これまでも何度かそうしてもらってきた。だが、こういうのはイタチごっこでな。すぐ新しいサイトができる」
「あっ。これ…」

最新の投稿写真にあたしは釘付けになる。
なぜなら、写っていたのは花沢類だったから。
掲載日時は一昨日の夜。



「…誰?」



花沢類と一緒に写っているのはあたしではない。
彼に縋るように腕を絡める女の子から目が離せなくなる。

遠景のためか、画像は少し荒い。
どこかで見た顔だと思った。だけど、それが思い出せない。
あの時、彼が言った“用事”はこの子と会うことだったの…?



「この子は柊木織恵ひいらぎおりえ。清和銀行グループのトップの一人娘。清和は、花沢物産のメーンバンクなんだ」
「ごめん。メーンバンクって?」
「その企業への融資額が1位の銀行ってこと」
「つまり、大事な取引先?」
「そういうこと」

その言葉で理解する。
浅井に見せられた、あるパーティーでの一コマ。
花沢類がエスコートしていた女の子の画像。
見たのは一瞬だったけど、彼女がそうだったんじゃない?



それを美作さんに話すと、彼は頷いた。

「類はさ、お前と付き合うようになって人間味が出て、ちょっと丸くなったんだよな。話し方とか、表情とかビミョーに。そこをこの子に勘違いされたんだよ」

以前は、誰に対しても冷ややかな対応をしていた彼。

「俺達みたいな境遇の奴らは、どうしても会社と切って離せない関係にある。上層部からの指示があれば、それがどんなに嫌な仕事でも、我慢して受け入れなきゃならないときがある」
「…だから、花沢類は、仕事の一環で彼女と会ってたってこと?」
「そうだ」

一昨日、別れ際に彼が見せた憂い顔を思い出す。
電話の向こうに、『分かりました』と答えたときの声の暗さも…。



「この画像を拾って、類に知らせた。あいつ、今、フランスなんだってな? フォローしといてほしいって急遽頼まれた。…これは、類の本意じゃない。お前は分かってくれてるだろうけど、念押し、な」

あたしが頷くのを見て、美作さんは微笑む。

「情報社会ってのは、便利なようでこうした弊害もある。プライバシーもへったくれもない。この写真だけ見て、類の心変わりを確信して、またお前に攻撃をしかけてくる奴がいるかもしれん。類はそれを懸念してるんだよ」
「…あたしは平気だよ。花沢類を信じてるから」
「でも動揺はするだろ。こんなもん、急に突き付けられたら」



確かにそうだった。
あたしは浅井が見せてきた画像で、頭の中が真っ白になってしまった。
冷ややかな視線と、無遠慮な笑いに晒されて…。

花沢類を信じてる。
だけど、自分に自信のないあたしは、容易く相手の思惑に嵌まる。



「類は、お前の純粋なところを心配してる。あざとくなれとまでは言わないが、今まで以上に相手を警戒してくれ。本心は隠せ。こうした外野の情報は鵜呑みにせず、ちゃんと類の言葉を直に聞いて、それを信じてやってほしい」

あたしは、美作さんに言われた訓戒を心の中で反芻する。
“花沢類の言葉を信じること”
なんて的確なアドバイスだろうと思う。

「美作さんの話、よく分かった。わざわざここまで来てくれてありがとう」

あたしが頭を下げると、彼は二ッと笑って立ち上がった。
そのまま校舎内へは戻らず、非常階段を下りていこうとする。
階段の途中で足を止めて振り返り、彼は言った。



「困ったことがあれば遠慮なく言え。俺じゃなくても、総二郎でも司でもいいぞ。あいつらも非常時には必ず手助けしてくれるから」
「…本当に?」

あたしが怪訝そうな声を上げると、彼は言った。

「それぞれがマイペースに動いているようでも、俺達はダチだから。これから先、どんなことがあっても、この根幹は絶対に揺るがない。だから、類の女であるお前を手助けしない選択肢はないんだ」






いつも拍手をありがとうございます。
インフラ整備については、2019年現在の水準に合わせています。

通信網の発達した現代なら、間違いなくF4は追いかけ回されただろうと思います。道行く歩行者が一瞬でパパラッチになれる時代ですからね…(;^_^A
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