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視線 ~22~

Category*『視線』
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胸の中のモヤモヤを吐き出したくて、あたしはバイトの時間を心待ちにしていた。
優紀に話を聞いてもらいたかったの。

だけど、今日に限って優紀はお休みで…。
午後から体調が悪くなったらしい。たぶん風邪だろうって。

あたしは売り場に出て、接客対応をする。
二人だと少し暇になり、一人だと少し手が足らない。
1.5人ならちょうどいい仕事量なのにねって、いつも優紀と話してるんだ。


午後7時になる少し前、立て続けに来客があった。
カウンターとバックヤードを一人パタパタと出入りしていたときのことだ。
あたしは、ふと、強い視線を感じてその発信元を辿った。



視線の主としっかり目が合う。



相手は綺麗な顔立ちの女の子だった。年齢はあたしと同じくらい。
英徳ではない制服を着ている。
この顔どこかで…と思うよりも早く、彼女の方がすーっとこちらに近づいてきた。

「いらっしゃいませ。商品はお決まりでしょうか?」

営業スマイルを向けると、ふわっとしたいい香りが鼻腔をくすぐった。
甘やかなフレグランス。
強すぎず、弱すぎず、ちょうどいい濃度の。



「贈り物にしたくて。甘味の強すぎないものが欲しいのですが…」
「では、こちらの蒸し饅頭はいかがでしょう。中は白餡で、甘さ控えめですよ」

時々はお客さんからそういう希望を聞くことがあるので、あたしの中には独自の接客マニュアルがある。
実際に食べたこともあるけど、小ぶりでほんのり甘くて美味しいんだ。
相手は他の商品には目もくれず、あっさりと購入を決めた。

「その10個入りを包んでもらえますか」
「はい。畏まりました」
「熨斗をお願いします」
「表書きはいかがいたしましょうか」
「名前だけ書いていただけますか?」


ふいに向けられた、どこか挑戦的な彼女の微笑に、あたしは作業の手を止める。
…何だろう?


「ヒイラギと申します」


えっ? 
ヒイラギさん?


その段になってようやく気付く。
目の前のこの子は、花沢類と会っていた『柊木織恵』ではないかということに。
…気付くのが遅すぎるくらいだ。


そうか。この子が…。
あたしは動揺を隠せないまま彼女を見つめた。


実物は、ネットに掲載されていた画像より数割増しに可愛かった。
…おまけにスタイルもいい。
細い輪郭線に、透き通るような白い肌。顔のパーツの一つ一つもとても綺麗で。
そして何よりも、彼女から発される強い視線にあたしは圧倒された。


確信的に、だよね。ここに来たのは。
俗に言う敵情視察ってやつ?


「…あ…あの、ヒイラギ様の漢字を、こちらにご記入いただけますか?」

あぁ、声が上ずる。
彼女は頷き、あたしの差し出したメモ帳にサラサラとペンを走らせた。

『柊木』

荒れることなど知らなそうな細い指と、艶やかに整えられた爪先。
よく見れば、腕時計や靴もそこらの安物とは違うみたい。

静さんだけじゃない。
世の中には、生まれながらのお嬢様って人がいるんだな…。



会計を済ませ、包装し終えた商品を入れた紙袋を渡す時、彼女がふっと笑んだ。
自信に満ちた微笑の中に、あたしへの蔑みの色を拾う。

直接、何か言われたわけではない。
それでも、あたしはそういう視線に慣れているから。
売り子姿の自分が恥ずかしくなり、途端に居たたまれなくなった。
でも…。

「ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております」

仕事を全うしないわけにはいかず、最後まで笑顔を崩さず相手を見送る。
彼女は無言のままもう一度笑み、踵を返した。
直後、別の客に話しかけられ、その後ろ姿を目で追うことはできなかった。





「いかがなさいましたか? 今日は元気がないご様子ですが…」

帰り際、出迎えてくれた運転手の馬場さんから真っ先に問われて苦笑する。
それだけ落ち込んでいるように見えたのだろう。

「今日は優紀が体調不良でお休みだったので、仕事が忙しかったんです」
「左様でございますか。それはお疲れ様でしたね」
「いえ。…いつもお迎えありがとうございます」
「さぁ、こちらへ」

あたしはリムジンに乗り込み、暗い車窓から空を見上げる。
今夜は曇天。月は見えない。


彼女のことを花沢類に話すつもりはなかった。偶然かもしれないし。
…いや、そんな偶然ないか。


何かされたわけでも、言われたわけでもない。
彼女は和菓子を買いに来ただけだ。
柊木織恵と彼女が同一人物だという証拠もない。
だけど…。

胸の中のモヤモヤは大きく膨れ上がって、あたしを息苦しくさせる。



花沢類に会いたい。
会って話したい。





『今、家に着きました。』

送り届けてもらったらすぐ、彼にメッセージを送ることは習慣化していた。
返信が来るかどうかは分からなかった。

フランスとの時差は8時間。
向こうは昼下がり。彼は起きている時間帯のはずだけど…。

『美作さんから話は聞いたよ。帰国はいつ頃になりそう?』

既読がつかないのに、そのまま2通目のメッセージを送ってしまう。
まだ相手の反応はない。

…忙しいんだろうな。

小さなため息をつき、スマートフォンを置いて部屋を出ようとすると、ふいに着信があった。あたしは慌てて手を伸ばした。



「…牧野?」
「えっと…花沢類? ど、どうしたの?」

まさか電話がくるとは思わず、あたしは心の準備ができていなかった。
それで、しどろもどろの返答になる。

「質問に答えようと思ったから。…でも、まずは謝らせて」
「え…?」
「何の説明もなく日本を離れてごめん。それから、例の写真のことも…」

『柊木織恵』とのツーショット写真のことを指しているのだろう。

会ってたんだよね。…あの子と。
どんな理由があったにせよ、二人で。

胸がぎゅうっと痛んで苦しい。



「不安にさせてごめん。あきらに説明させたことも申し訳なく思ってる」
「…仕事だったんだよね?」
「もちろん」

花沢類は短く同意を返す。

「今、ここでゴチャゴチャと弁明はしない。帰国したら真っ先に会いに行く。全部説明する。…だから、待ってて」






いつも拍手をありがとうございます。
一難去ってまた一難。自分を見つめる新たな視線と出くわしました。

次話はIntermissionです。どうぞお楽しみに!
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6 Comments

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2019/08/28 (Wed) 08:47 | REPLY |   

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2019/08/28 (Wed) 12:54 | REPLY |   

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2019/08/28 (Wed) 14:22 | REPLY |   
nainai

nainai  

み様

こんばんは。コメントありがとうございます(*^^)v

リリーズほどではありませんが、織恵ちゃんも自分のステータスに自信がある人間です。“目は口ほどに物をいう”の諺通り、美しい微笑を浮かべながらも、視線の中につくしへの嫉妬と蔑みを滲ませます。彼女にそうまでさせてしまう類が罪作りだなぁ、と思ったりも。

本作のタイトルは『視線』、様々な感情を乗せながら、つくしや類を見つめるそれを主題にしています。その中にあって類が後手に回りがちなのは、彼がまだ一人の男性として完成形ではないからです。でも懸命に努力はしているのです。

まだまだ不安定な二人の、恋の行く末を見守っていてくださいね。執筆頑張ります!

2019/08/28 (Wed) 22:37 | REPLY |   
nainai

nainai  

ゆ様

こんばんは。コメントありがとうございます(*'▽')

織恵ちゃん、リリーズほどではありませんが攻撃型の人間です。間の悪いことに、頼りの優紀も不在という状況下での来訪でして。つくしのショックは計り知れないと思います…。

類はつくしの帰宅を待って連絡をしました。会って、自分の言葉でちゃんと説明したいという意思表明をします。類は類なりに一生懸命なのです。

今回は“10代の揺らぎ”を書きたいがために高校生設定にしています。
まだまだ不安定な二人の恋。成就にはそれぞれの成長が必要ですね。

2019/08/28 (Wed) 22:58 | REPLY |   
nainai

nainai  

ふ様

こんばんは。コメントありがとうございます(*‘∀‘)

若いがゆえの魅力! そう仰っていただけてとっても嬉しいです♪ 前作が30代の恋でしたので、今作では揺らぐ10代の恋が描きたかったのです。
現時点の類は“策士”には程遠く、いろいろとミステイクもします。つくしも類を信じると言いながら、何度も心を揺らして苦悩します。そうした青さを愛しいな~と思っていただけたなら本望です(^^♪

表現したいものがちゃんと伝わってくれたらいいなぁと思いながら、今は終盤の執筆を頑張っています。予告通り50話…といかず、もう少し話数は伸びそうです。最後までよろしくお付き合いくださいませ。

2019/08/28 (Wed) 23:22 | REPLY |   

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