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視線 ~23~

Category*『視線』
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花沢類の帰国は週明けの予定。
あちらでの滞在が、思いの外、長引いている。

メッセージのやり取りはある。非常に長いスパンを挟んで。
それによると、彼は社長であるお父さんに同行して、フランス国内を転々としているらしかった。ワインとチーズの産地を巡っているんだって。


あたしの方はというと、非常階段で美作さんと話をした翌日から、昼休みに呼び出しがかかるようになった。F4専用ラウンジに来るようにって。
花沢類は、不在の間のあたしのフォローを美作さんに頼んでいるらしい。

そんな必要ないのに、と思っていたけれど、水曜からはずっと雨予報で、あたしには非常階段という逃げ場がなくなっていた。教室で相変わらずストレスフルな時間を過ごしていたあたしにとって、呼び出しは救いの声だったとも言える。

花沢類と柊木さんのツーショットは、一部の生徒の間で取り沙汰されていたようだけれど、あたしの周囲にはしばしばF3の影がチラつくせいか、それをネタに絡んでくる生徒はいなかった。



あたしが姿を見せると、カフェテリアの中は途端にザワザワし始める。
集中する視線を無視して、そのままF4専用ラウンジの階段を上ると、「なんで?」という声が背後からいくつも上がる。
…不遜かもしれないけど、あたしだって、ここに来たいわけじゃないんだってば。


存外に、美作さん以外の二人も快くあたしを迎え入れてくれた。
でもって、最初は、持参した弁当の内容に驚いていた。

「それ、食い物か?」という道明寺の無礼な質問には、原材料から説明してやる。
名もない料理かもしれないけど体にはいいんだよ、と言って。

美作さんは、「でも、栄養が足りてないぞ」と自分のランチプレートから適当に取り分けてくれる。彼には妹が二人いるからか、実に面倒見が良い。

「箸の扱い方が雑だ」と、西門さんはマナー面を注意してくれる。
まったく、三者三様で笑えてくるよね。



彼らの話す雑談は興味深かった。
それぞれの家のこと、社会経済のこと、華やかな夜会のこと…。
あたしの知らないことばかりでとても勉強になる。

彼らはあたしがいることなどお構いなしなので、中には非常に際どい話題もある。
その中で分かってきた、彼らの恋愛観。

西門さんは、女の子との恋愛に『3回ルール』という独自の決め事があること。
美作さんは、10歳以上年上の人妻としか恋に落ちないこと。
道明寺は、自分が好きになった相手と恋がしたいと思っていること。

…意外にも、道明寺の姿勢が好ましいじゃない。



実は、あたしには、花沢類に訊きたいのに訊けないことが一つある。
西門さんと道明寺が株のデイトレードの話題に花を咲かせているとき、あたしはコソコソと美作さんに尋ねた。

「あ、あの…」
「うん?」
「花沢類って…静さん以外に、好きだった人…とか、いるの?」

すると、美作さんは目を丸くして。
次の瞬間にはニヤリとして。



「…なぁ。牧野が、類の過去の恋愛事情について知りたいんだと」

話を振られた西門さんと道明寺は、「は?」という顔をした後で、同じようにニヤリと笑った。…猛烈に、嫌な予感がした。

彼らは、嬉々として花沢類の恋愛遍歴を語った。
聞けば聞くほど、耳を覆いたくなる内容にあたしは絶句した。



……本当に?
花沢類って、そうだったの?

西門さんばりに、色んな女の子と付き合ってきたって…。
淡白な顔をしている奴ほど、ソッチ方面は始末に負えないんだって…。

ずっと静さんのことだけが好きなんだと思ってた。
その気持ちがあっても、他の誰かと付き合えるものなんだね…。



あたしの気持ちは沈んでいく。
深く、深く。
あっという間に、深海の底にいる気分。

あれだけカッコいいんだもん。
それも当然か…。
道理でキスも巧いはずだよね…と、妙に納得しかけたとき―。


ビシッ


「…痛っ!」

唐突に額に走った痛みに、あたしは声を上げた。
デコピンをしてきたのは西門さん。
額を押さえながら咎めるように彼を見ると、相手は笑いをこらえながら言った。

「マジにとるなよ。ウソに決まってんだろ?」
「あの類だぜ? 三食より昼寝が好きな奴に、総二郎みたいなマメさも元気もねぇって」

美作さんも言い添えながら大きく笑う。
…は? 嘘?
揶揄われたことに気付いたのは一瞬のち。



…もうっ! 信じらんないっ!
こっちは真剣に聞いてるのにっ!!



涼しい顔の美作さんを、恨みがましくジト目で見つめる。

「俺、言ったろ? 外野の情報は鵜呑みにせず、ちゃんと類に聞けって」
「…言ってたけどさ。…あんまりだと思うんだけど」
「ふっ、お前は単純だな」

道明寺にまでそんなことを言われて、あたしは怒り心頭だ。
その花沢類に訊けないから、ここで訊いたんじゃないのっっ。




「…じゃ、あたしはこれで」

もういいや、とばかりに食べ終わった弁当包みを掴み、すっくと立ち上がる。
彼らはまだ笑い続けている。
そのまま足早に歩き出すと、背後から西門さんの声がかかった。

「牧野」

あたしは立ち止まる。でも振り返らない。

「俺が思うに、類は“まだ”だと思うぞ」

…まだ? 
まだって何が?

「いつもお前にも訊いてたろ? “まだか?”って」


西門さんと美作さんは、顔を合わせる度にあたしにそう訊いていた。
…だから。
花沢類も“まだ”っていうのは、つまり、その…。


カーッと顔に熱が集まる。
あたし、今、絶対ヘンな顔してる。自信ある。


すると、それを遮る道明寺の声。

「おい。それこそ鵜呑みにしていいのかよ?」
「あとは自分で確かめるんだな、つくしチャン?」

この状況を面白がっている声だ。
結局、どっちなのよ…。

「とりあえず、教えてくれてありがと! じゃ、行くね!」

あぁ、顔が熱い…。
あたしは彼らを振り返ることはできずに、口早に礼を述べて階段を駆け下りた。






いつも拍手をありがとうございます。
類の不在下における、つくしとF3の交流を描いてみました。
たぶんいいように揶揄われてしまうんだろうな、と(^ ^;)
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