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視線 ~24~

Category*『視線』
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花沢類の帰国は更に延びた。
彼に会えないまま2週間が経ち、土曜日になった。

今日は、ケータリングサービスのアルバイトに行き、屋外イベントが終わるまで働いた。人手が足りないからと、中学時代の友達が誘ってくれたの。
日雇いは体力が必要だけど、実入りがいい。
「今度も頼むね」とバイトリーダーに言われて、元気よく挨拶して帰った。


働く場所が変わっても、馬場さんはいつも近くであたしの帰りを待っていてくれる。
笑顔のお出迎えにいつもホッとさせられるの。
あたしにとっての癒し系なんだよね。馬場さんって。



「ただいまぁ」

玄関ドアを開けた途端に、ふわぁっと香ばしい匂いがした。
何だろう? すっごくおいしそうなんだけど!
バイトで疲れ果てていたあたしのお腹はグーッと鳴る。
ママが満面の笑みで出迎えてくれた。

「お帰りなさい。疲れたでしょう」
「えぇっ! すき焼き!? しかも牛肉!?」

あたしは仰天した。
牛肉のすき焼きなんていつ振りだろう。
牧野家ではあまりにも珍しい高級メニューに驚きが隠せない。
あたしは、鼻歌を歌っているママを問い詰めた。


「ちょっと、ママ! お金はどうしたの!?」
「ふっふっふっ。今日はねぇ、臨時収入があったの」
「臨時、収入…?」

ニンマリと笑うママ。
詳細を確かめると、少し前にパート仲間から新しい仕事を持ち掛けられたらしい。
短時間で効率よく働ける副業だ、と。

あたしは眉根を寄せた。

「大丈夫なの? それ、怪しい仕事内容じゃないよね?」
「川野さんが保証してくれたんだから心配いらないわよぉ」
「その人、誰?」
「ママの仲良しのお友達よ。…さぁ、食べましょ!」

ママがそう呼びかけると、パパと進は居間で出来上がりを待っていたようで、いそいそと配膳を手伝い始めた。話はそこで打ち切られてしまった。


川野さんって誰だったろう。職場の人よね?
ママって、意外と世間知らずで楽観的だから、なんだか心配なんだけど。
それに臨時収入があったんなら、堅実に貯金しておけばいいのに。
その言葉が喉まで出かかって止まる。

皆が心から嬉しそうにしていたので、水を差すようなことは言えなくて。
いつも節約・節約・節約のオンパレードだもんね。
外食もしないし、たまにはこういう贅沢もしたいよね。


あたしが英徳じゃなかったら、こんな苦労はしなくてもいいのにな…。
パパは薄給ってママは言うけど、高い授業料が浮く分、もっと余裕のある暮らしができるはずなのに。

ママが奮発したすき焼きは美味しかったけど、食卓に上るとあっという間に無くなった。本当に秒で皆の胃袋に消えた感じ。
うーん。もうちょっと味わいたかったなぁ。




花沢類がメッセージを送ってきたのは、その夜のことだった。
スマートフォンが小さく揺れる。

『遅くにごめん。これから会えない? 少しだけでいいから』

時刻は午後11時半。あたしは入浴を済ませ、スタンドライトだけ照らして、英語の予習をしているところだった。
同室の進は、畳に敷いた布団の中でスゥスゥと寝息を立てて眠っている。

帰国は週明けだと思っていた。
驚きの余り、画面のフリック入力の指が震える。

『いいよ。どこに行けばいい?』
『外を見て』

スマートフォン片手に、窓辺に近づいてカーテンを開け、階下を見渡す。
明かりがポツポツと点在しているけれど、闇は深い。
いつか馬場さんがあたしを迎えに来た場所に、白いリムジンが停まっていた。
後部席の窓が少しだけ開いて、そこからヒラヒラと振られる手が見える。
思わず、あたしも手を振り返していた。

『待ってて。すぐ行く。』



あたしは慌てて外に出ようとして、ふと立ち止まり、自分の格好を見下ろした。
…いや、さすがに寝間着はマズい。

急いでニットセーターとジーンズに着替え、最後にパーカーを羽織る。
隣の寝室の様子を窺うと、パパもママも寝入っているようだった。
あたしは居間を横切って玄関に移動し、ドアをわずかに開けて廊下に滑り出た。


11月も半ばを過ぎ、頬に触れる夜気はシンと冷たい。
あたしはパーカーを胸元で掻き合わせると、足音を忍ばせて非常階段を下りた。
エレベーターは作動音がするので使いたくなかった。時刻も時刻なだけに、住人の誰にも会いませんようにと強く願いながら、あたしは彼の元へと急いだ。






いつも拍手をありがとうございます。
9/1にブログ拍手が60,000に達しました! とても嬉しいです(*'▽')
皆様の『ポチッ』のひと手間に、深く感謝いたします。
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2 Comments

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2019/09/03 (Tue) 17:19 | REPLY |   
nainai

nainai  

ゆ様

こんばんは。いつもコメントありがとうございます。
応援嬉しいです(*^^)v

ゆ様の第一声の通り、嫌~な予感がヒシヒシ。
牧野家のパパ&ママについては、私もいつも扱いに困ってしまいます💦

さて、おうちデートから2週間を経て、類が帰ってきました。
二人がどのような会話を交わすのか、続きを楽しんでくださいね。


拍手をいただくということは、やはり貴重なことだなぁと思います。
延べ60000という数字を励みにしながら、今夜も執筆を頑張ります!

2019/09/03 (Tue) 23:06 | REPLY |   

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