FC2ブログ

視線 ~25~

Category*『視線』
 0
花沢類は、社宅の敷地の入口にある街灯の下で、あたしが下りて来るのを待っていてくれた。遠目にも、彼がふんわりと笑んでいるのが分かる。
駆け寄ると、そのまま手を引かれてリムジンの中に招き入れられた。

会話する間もなく、彼に抱きすくめられる。
当然ながら、あたしは慌てた。

「は、花沢類…っ」
「…しばらく、こうさせて」

彼の首筋からいつものフレグランスが淡く香る。
あたしはその香りをすぅっと吸い込んだ。



…逢いたかった。
この2週間、彼がいなくて寂しかった…。



面と向かって、そうは言えない。…恥ずかしくて。
言葉にできない代わりに、広い背に両腕を回してしがみつく。
胸は早鐘のように打っていた。




今、この瞬間は、二人だけの世界。
抱いていた不安は霧散する。
互いの存在以外の何もかもが、あたし達からは遠かった。




無言のまま、時が流れる。
リムジンはいつの間にか動き出していた。
どこに向かっているのかは分からなかった。


「…なかなか充電できない」

彼から次に出てきたのはそんなセリフだった。
わずかに体が離れる。
あたしは、彼の腕の中、目線だけで彼を見上げた。

…充電って?

「全然離れらんない。ちょっとの間だけって思ってたのに」

少しだけ甘えた口調。
改めて、ぎゅうっと抱きしめられる。

「すごく安心する」

彼にそんなふうに言ってもらえるなんて、思ってなかった。
気恥ずかしくて、でも嬉しくて、どうにかなってしまいそう。




ねぇ、花沢類?

あたし達は、少しずつ“好き”を育てていってるんだね。
だから、会うたびに、一緒にいられる喜びが強まっていくの。




ようやく腕の力が緩んだと思ったら、今度は蟀谷にチュッとキスをされる。
驚いて顔を上げると彼の笑顔があって、それに見惚れている間に唇を塞がれた。
舌先で歯列をなぞられると、体の奥の方がカァッと熱くなった。

「…ん…」

思わず、声が漏れた。
あっという間に深まるキスに必死に応える。
互いの熱がゆっくり交じり合っていく感覚に、頭の芯が痺れていく―。



好きだよ。大好きだよ。
初めて好きになった人に、同じように好きになってもらえるなんて奇跡みたい。




濡れた感触を残して、唇は離れていく。
あぁ、終わっちゃうんだ。
名残惜しそうに彼の唇を目で追ってしまい、くすっと笑われた。

「…もっとしたい?」
「えっ!?」

ど、ど、どうしよう。
したいような、したくないような、……やっぱりしたいような。
なんて答えていいか分からずにへどもどしていると、彼の方が先に答えを出す。

「でも、これ以上は俺が我慢できなくなるから」
「…我慢?」

あたしが言葉の意味を問うと、苦笑いが返る。



「…あいつらに、俺の恋愛経験値を訊ねたんだって?」
「あっ…それは…」
「直接訊いてくれたらよかったのに」
「…ごめん…」
「でも、答えることは何もなかったけどね」

何も、ない…?

「初めてだから。付き合うの」

…ほ、本当に!?

「デートするのも、恋人のキスをするのも、…キスの先のことも」


頭の中に西門さんの言葉が甦る。
『俺が思うに、類は“まだ”だと思うぞ』
あれ、ホントだったんだ…!


「あんたも、初めてだよね?」
「あ…えっと…その…」
「……違うの?」
「あの…。あのね…。ファーストキスは、違ったかも…」

熱海の船上パーティーで、もしかしたら唇に触れたかもしれないのは彼の親友で。
それは不可抗力だったけれど、事実は事実だし…。
花沢類はすぐ合点がいったようで、安堵したように笑う。

「あれは事故。カウントしないでいいよ」
「…そ、そうなの?」


それなら全部が全部、初めてだよ。
だから、全然、余裕なんてないよ。


花沢類は、あたしの答えに満足気に笑んだ後でこう言った。

「話すよ。…柊木織恵のことを」
「…うん」






いつも拍手をありがとうございます。
不安よりも喜びが勝る二人の再会でした。深更の逢瀬はもう少し続きます。
関連記事
スポンサーサイト



0 Comments

Post a comment