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Intermission ~5~

Category*『視線』
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パリにある花沢家の私邸。
両親はここを拠点に、欧州を広く巡りながら仕事をしている。

代表取締役社長である父、花沢圭悟けいご
常務取締役である母、希和子きわこ

二人が日本に戻ってくるのは年に数回。
総計しても、滞在期間は半月に満たない。
直近の帰国は、6月の株主総会の時だった。



エントランスに姿を見せた俺を、両親は驚きを隠さずに見つめた。
彼らを出迎えること自体が珍しいからだろう。

「真剣に交際している女性がいます」

部屋を移り、挨拶もそこそこに本題を切り出すと、父は苦笑を浮かべた。

「松川から報告は受けている。英徳の後輩だそうだな」
「はい」
「それで?」
「柊木代表のご機嫌取りのために、俺を利用しないでもらいたいです。彼の娘と交際する気はありません」


花沢物産本社のメーンバンクである清和銀行。
清和グループの権勢は日本全土に及ぶ。
トップに立つのは辣腕と名高い柊木代表、その娘が織恵だった。


「先日のパーティー以来、三藤専務を通じて、連日のように呼び出しがあります。毎回お断りするのも角が立つと思い、何度か応じました。この一連のことはあなた方の意向ですか?」

両親は顔を見合わせる。

「…いや、こちらから指示をしたのは、例のパーティーのエスコートだけだが」
「三藤専務は何と言ってるの? こちらには年頃が近く、気も合うようだという報告しか上がっていないわ」

俺はため息をつく。
なんとなく、そうじゃないかと思っていた。
これには清和と関わりの深い三藤専務の忖度そんたくが混じっているのではないか、と。



「告げ口になるので詳細は言いません。俺は、このやり取りが会社の利潤に絡む話なのかどうか、それが知りたいだけです」
「関係がないと言ったら?」
「もう呼び出しには応じません。彼女を不安にさせたくないので」
「では、関係があると言ったら?」
「パートナーシップを見直す時が来た、と一言申し上げておきましょう。やり方がフェアじゃないので、今後はそれなりの対応をします」

父はため息をつく。

「その件は三藤に確認しておく。対応については留保していてほしい」
「できるだけ早くお願いします」
「…交際相手の話を聞こう」

俺は、牧野のことを両親に話した。
彼らは、ある程度の情報を本邸の松川から得ていたものと思われる。
印象は悪くないようだった。
それでも、牧野が一般家庭の出身であることを口にすると表情を曇らせた。

「彼女には多くの美点があります。会えば分かってもらえると思います。次の帰国の時に紹介させてください」




両親は再び顔を見合わせ、素早くアイコンタクトを送り合う。
そうしたやり取りに苛立ちを覚えながらも、じっと返答を待った。

「…進学や就職に伴って、人の気持ちは大きく変わりゆくものだ。まだ交際を始めて日も浅いと聞く。早い段階から相手を絞ることはないんじゃないか?」
「彼女に対して不実であれと?」
「そうではない。少し性急すぎはしないかと言っている」

性急である、という部分は否定しない。

「お前達はもう将来的な話をしているのか? 初めての交際に舞い上がっているだけじゃないのか?」
「将来的な話はまだです。後半の指摘も尤もであると思いますが、それ以上に今は、会社からの干渉が俺には問題です。周囲にも誤解を与えたくありません」



最終的に、両親は年末の帰国の際、牧野に会うことを承諾してくれた。
だが、将来的なことを考えるにあたって、相手にはそれなりのスキルを求めることになるとも明言した。そうでなければ、先々、苦労することが分かっているから、と。

そして、俺もいくつかの命題を課された。
望みを叶えるためには、それに見合う代償が必要だということなのだろう。
父の仕事に同行することが決まり、帰国の予定が大幅に延びる。





その夜、寝室に母が一人でやってきた。
もう少し牧野のことが知りたい、と。
母親とこんなふうに、彼女のことを話す日が来るとは思わなかった。

母が訊ね、俺が答える。
それを幾度も繰り返して。


「牧野さんの写真はないの?」

そう問われ、やや躊躇したが、スマートフォンに保存している画像を呼び出して母に手渡した。写真を撮られるのは嫌いだが、彼女を撮るのは好きだった。

牧野の表情は豊かだ。そして、笑顔がとてもいい。
見ているこちらを元気にしてくれる、ビタミンパワーを持っている。



「…温かい笑顔ね。もう少し見てもいい?」

俺が頷くのを待って、母は細い指で画像をスライドさせていく。
その指先を目で追っていると、ふと彼女が顔を上げて俺を見た。
俺によく似た瞳が優しく和んでいる。

「あなたもいい表情かおをしているわ。類…」

だとしたら、それは牧野からのギフトだと俺は思う。






いつも拍手をありがとうございます。
花沢夫妻の登場です。以降、オリジナルキャラクターが徐々に増えていきます。
ぜひ名前を憶えていただきたいので、近々『人物紹介』の記事をUPしますね。
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