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視線 ~29~

Category*『視線』
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「…牧野」

ふいに背後から声を掛けられ、あたしはハッとして彼を振り返った。
花沢類と女将さんが並んで立っている。
二人が戻ってきていたことに、あたしは気付かなかった。
彼が席を外してから、ずいぶん時間が経っていたことにようやく思い至る。

「あの…やっぱり、今日は来られないみたい?」

現在に至るも姿を見せない面談相手のことを訊いたつもりだった。
彼は意味深に笑う。

「…いや、大丈夫」

女将さんも苦笑いしている。
その笑顔がやっぱり誰かに似ている気がする。




花沢類が唐突に声のトーンを変えた。

「じーさん、好々爺こうこうやのふりして性格悪いよね」
「ほっほっ」

せ、性格悪いって、ちょっと…。
あたしは、花沢類と庭師さんとの気安い会話に驚く。



次の瞬間、彼はあっさり告げた。

「その人だから」
「………?」

…何が?

「俺が今日牧野に会わせるつもりでいたのは、そこのじーさんと女将だから」
「えっ? 庭師さんと女将さんに?」

花沢類が怪訝な顔を庭師さんに向ける。

「誰が庭師? そろそろ自己紹介してくれてもよくない?」

言われた方は、目を白黒させるあたしの顔を楽し気に眺め、こう述べた。



「儂は宗像むなかた あまね。この店のオーナーで、類の祖父です」
「私は日下 佐和子。類の伯母です」
「つまり、二人とも母方の親戚」
「………え?」


愕然、唖然、そして呆然―。


ポカンと口を開けたまま、花沢類を見上げているあたしが可笑しかったのだろう。
お祖父さんと女将さんはクスクス笑い始めた。
酷いことには、花沢類まで…!

あたしは目の前の状況をようやく理解した。
そして、思い至る。
女将さんの美しい微笑は、彼のそれと似ていること―。



「…ごめん。機嫌直して」

このセリフ、前にも聞いたな…。

彼が、あたしの手にそっと触れてくる。
花沢類は申し訳なさそうにこの対面の主旨を明かした。

「親戚と明かさないまま会わせてほしいと言われてた。素の牧野が見たいからって」
「…そうなんだ」
「二人にはこちら側について、協力してもらいたいから」


つまり、あたしは、今の今まで品定めされていたのね?


「…それで、…あの、…ご協力いただけるんでしょうか?」

恐る恐る確認すると、二人は大きく笑んだ。

「もちろんですよ! 不安がらせてごめんなさいね。部屋で普通に対面する手筈だったのに、直前に父が姿をくらませるから類さんと二人で探していたんですよ」
「母屋にも外にもいなくて戻ってきたら、庭で楽しそうに談笑してるし、ホント迷惑」
「…すまないね。でも、実に有意義な時間でしたよ」


よかった…。
拒絶されたわけじゃなかったんだ…。
あたしは安堵の息をつく。


一人で待っている間、ずっと不安で仕方なかった。
あたしじゃダメだと烙印を押されるんじゃないかって、とても怖かった。


「…ごめん」

あたしにだけ聞こえる小さな声で、もう一度彼が言った。
ちょっとシュンとして見える彼の顔。
怒ってる?と、その瞳が問うている。


大丈夫だよ。
許してあげる。


彼の手をきゅっと握って微笑むと、それに応えて彼も微笑った。






いつも拍手をありがとうございます。
第28話にて、「庭師さんですか?」と尋ねたつくしに、「そのようなものです」と答えた周。一応ね、ウソはついていません(^ ^;)
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