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視線 ~30~

Category*『視線』
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花沢類のお母さんは、名を希和子さんという。
日下家に嫁いだ佐和子さんとは双子の姉妹なのだそうだ。因みに佐和子さんが姉。
性格は正反対だと三人は笑う。

「陰と陽で表すのなら、父と私は陰、亡くなった母と希和子は陽でした。そう表現したら、なんとなく個々の性格も分かるかしら?」

女将さん改め佐和子さんは、艶やかに微笑みながらそう述べる。
花沢類の縁戚と思って見つめれば、いくつも似たパーツがあることに気付く。
つまり、彼はお母さん似なんだ。



先ほど通された和室に戻り、改めて花沢家と宗像家の関係性を明かされる。
花沢類のお父さんは、名を圭悟さんという。
宗像家は当初、圭悟さんと希和子さんの結婚に反対したのだそうだ。

「宗像家は旧家ではあるけれど、相手はあの花沢でしょう? 立場上、希和子が苦労するのは目に見えていました。父と私は反対の立場を、母は中立の立場を取ったのです」

佐和子さんはやや砕けた口調で過去を語る。
庭師さん改め周さんは、静かに頷くだけだ。

「結局は二人の熱意に負けて結婚を許すことになりました。途中からは、母も、希和子の願いを優先させたいと言い出しましたからね。…類さんが生まれてしばらくの間、両家の関係は表面上、穏やかでした。ですが後々、教育方針で揉めることになったのです」
「教育方針で、ですか?」

あたしが要領を得ずに問い返すと、説明を補うように花沢類が口を開いた。


「もともと花沢家は教育に厳しい家でさ。亡くなった父方の祖父も厳格だった。父は自分の幼少期と同じように、俺に多くの課題を与えた。内容はあまり覚えてないけど毎日つらかったことは覚えてる」

彼は淡々とした口調で自身の過去を語る。

「当時の滞在先がフランスだったせいもあってか、環境になじめなくて適応障害みたいな症状が出たらしい。最終的には失語症になって。…さすがの父も焦ったんだろうね。俺と母は日本に帰されて、療養のためにここの母屋で世話になった時期があったんだよ」



花沢類の話を、佐和子さんが継ぐ。

「類さんは大人しい子ではあったけれど、ふわっと笑う可愛い子でした。私の子供達ともよくここで遊んで…。それなのに、フランスから戻ったら笑顔は消えていて、話すことさえままならない。父が、それはもうひどく怒って、一時は離縁だ、なんだと大騒ぎになったのです」
「その頃の記憶はない。内向的なのは元からの気質もあると思う。…でも、失語症が治った後も、俺は環境の変化に弱くなったみたいで、何かある度にしばしば体調を崩すようになった」



それまで声を発さなかった周さんが、言葉を添える。

「子供それぞれに個性があるように、教育というものもオーダーメイドでなくてはいかん。佐和子と希和子のような双子でも、性格も好みも大きく異なるものだ。圭悟君は、そもそもの最初からその点を見誤っていたと儂は思う」

そうだね。
親だから、兄弟だからって、得手不得手が同じってわけじゃないものね。

「圭悟君とは何度かやり合ったが、最終的に物別れに終わった。もう何年も口を利いとらん。教育とは正解を見極めにくいものだ。各家庭で方針が異なることも理解はしている。…だが、類が成長するにつれて心配事は増えていった」
「あとは牧野も知っての通り。…出会った頃の俺、嫌な奴だったろ?」
「うん。…あっ」

あたしが間髪入れずに即答したので、三人は苦笑を浮かべた。
慌てて「ごめんなさい」と言えば、「本当のことだし」と返される。




無口、無表情、無気力、無神経…。
出会った頃の花沢類を表す言葉には、たくさんの『無』がついていた。
彼の言動に傷つけられたこともある。

それでも、彼は、あたしを助けてくれたから。
一番苦しいときに、真っ先にその手を差し伸べてくれたから。


そして、今では、あたしを必要としてくれるようになった。
これからの時間を一緒に過ごしていく相手として、あたしを選んでくれた。


もう『無』じゃないよね?
あたしは、あなたの笑顔を知ってるよ。
口に出さないだけで、たくさんの想いがあることも知ってる。
一緒に過ごしてきた時間は短いけれど、ちゃんと分かってるつもりだから。




「類さんから連絡をもらったときは驚きました。大きくなるにつれ、ここからも足は遠のいていましたし、こんなふうに私達を頼ってもらえるなんて思いもしませんでしたから」

佐和子さんは言う。

「付き合っている子がいる。でも父親にはいい顔をされてない。…そう言ったら、私達が黙っていないのを見越していたんでしょう?」

花沢類は応える。
惚れ惚れしてしまうほどの確信的な微笑で。

「もちろん信じてたけど? 俺達を全面的に支援してくれるだろうって」






いつも拍手をありがとうございます。
花沢圭悟と宗像周の間には現在にも続く確執があります。
その経緯をなんとなく覚えておいていただければ…。
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4 Comments

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2019/09/17 (Tue) 09:39 | REPLY |   
nainai

nainai  

ゆ様

こんばんは。いつもコメントありがとうございます(^ω^)

原作では主要人物達の両親は出てくるのですが、年齢的には祖父母もご存命だと思うんですね。今作では類の母方の親戚を引っ張り出して、類達の味方についてもらいました!

現実社会でも、子供に向ける気持ちと、孫に向ける気持ちはちょっと違いますよね。圭悟と周、双方の心情をうまく書き分けていけたらいいなぁと思います。

物語はそろそろ折り返し地点を迎えます。執筆&推敲を頑張ります。

2019/09/17 (Tue) 22:31 | REPLY |   

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2019/09/18 (Wed) 09:20 | REPLY |   
nainai

nainai  

m様

こんばんは。コメントありがとうございます。
嬉しいです~(*´ω`*)

今作での花沢夫妻は恋愛結婚なので、類の気持ちへの理解はあるはずなんですよね。でも、まだ年若い二人だし、交際期間は短いし、加えて相手は一般家庭の子だし…ってことで、父・圭悟は静観しているという具合です。
m様の仰る通り、二人が絆を強くする時間が必要なのです。

物語はちょうど中間地点くらいです。まだまだ頑張って書いています。70話くらいに納まるといいのですが…。

2019/09/18 (Wed) 21:28 | REPLY |   

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