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視線 ~37~

Category*『視線』
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結局深くは眠れず、夢うつつのうちに朝を迎えた。
牧野家には、クリスマスだからといって特別な慣習はないので、普段と変わらぬ朝の光景がそこにはあった。

パパはいつもの時刻に出社。
ママは、今日は早番だからと慌ただしく家を出て行った。
本当は私も朝からバイトが入っていたけど、女将さんに出勤時刻を調整してもらって、なんとか空き時間を作った。


進と連れ立って102号室へと向かう。その途中、別の階の住人とすれ違った。
その男性とあまり話したことはなく、儀礼的な挨拶を交わすにとどめる。
チラリと投げられた視線が冷たさを孕んでいたように思えて、私はドキリとした。

気のせい…かな?
噂は、どこまで広がっているんだろう…。



約束の午前9時、進が102号室の玄関ベルを鳴らすと、すぐに応答があった。
ドアが少し開いて、女の子が顔を出す。

森田ゆうちゃんは私より4つ下の中学1年生。
進とは中学校が一緒で、308号室の梶原君とは部活も同じらしい。
小学校の登校班ではよく面倒を見ていたこともあり、私とも仲が良かった。

「おはようございます。牧野先輩」
「久しぶりだね。悠ちゃん」
「はい」

悠ちゃんは記憶の中の姿と違い、身長も私と同じくらいに伸びていた。
あどけなさを残しつつも、ずいぶんと大人びた顔立ちになっている。
そして、言葉遣いも。

「どうぞ、上がってください」

悠ちゃんは、進と私にスリッパを勧めると、奥にいる彼女の母親に声をかけた。



うちと同じ間取りの、うちとは違うインテリア。
それらを横目に映しつつ、リビングに移動した。

「おはようございます。朝早くからお訪ねしてすみません」
「つくしちゃん、久しぶりね。すっかりお姉さんになって…」

悠ちゃんのお母さんとも以前はよく話した。喘息の発作で休みがちだった悠ちゃんのことで、学校との橋渡しを頼まれることが多かったのだ。
椅子を勧められて私と進は並んで座り、森田さん母娘と向かい合った。




「あなた達、お母さんから仕事の話は聞いてない?」

森田さんの最初の質問がそれだった。
揃って首を振ると、彼女の表情が曇ったのが分かった。

「…これは、私が直接やり取りした話じゃないんだけどね。…名前は伏せるけど、親しくしている人が、牧野さんから投資話を持ち掛けられたらしいの」
「投資、ですか?」
「投資ファンドというもので…。あぁ、言葉の意味は分かる?」
「いえ…」
「私も詳しくないんだけど、プロの投資家にお金を預けて、それを元手にお金を増やしてもらうシステムみたい。出資した金額の数%を配当金として受け取るの」
「配当って、預けたお金に利息がつくことですか?」
「えぇ。配当金は出資額に応じて上がっていく仕組みで、元の出資金が損しないように保証する元本保証もあるっていう話なんだけど…」



つらつらと出てくる難しい言葉をゆっくりと咀嚼して、理解に努める。
進の方を見ると、内容はさっぱり分からないようで首をゆるく振った。

投資ファンド。高額配当。元本保証。

毎日ニュースや新聞を見ていれば、時々は目にするワードじゃないだろうか。
『特殊詐欺』という言葉が脳裏をちらつき、背に冷たいものを感じた。


あのママが?
投資話って何!?
金融関係に詳しいとも思えないママが、一人でそんなことできるはずない…。



「母が…。母がそれをご友人に勧めてきたんですか? 一人で?」
「いいえ。牧野さんと一緒に他の女性が同席したらしくて、システムの説明はその方が一人でされたそうよ。…大手の銀行に預けても利息が1%つかない時代ですもの。数%の配当なんて怪しすぎる、と友人は感じたらしくて断ろうとしたの。でも…」

ママは自分を例に挙げて、メリットを前面に押し出してきたという。
絶対に損はしない。
配当金はちゃんと支払われている。
誰かを紹介すれば、より配当率が上がる―。

最終的にその方は、夫に断りなく契約はできないと突っぱねたそうだ。
意志の強い人で良かったと思う。


「友人は詐欺と確信しているみたい。その時の牧野さん、一緒にいた女性をすっかり信用しきっている様子だったから、相当深入りしているんじゃないかしらって…」

私と進は顔を見合わせた。
進の表情は硬く、強張っていた。
私の方もきっと似たようなものだっただろう。

森田さんは対応に苦慮し、どうするべきかをご主人に相談したという。
ご主人は面倒を避けたいから、と無関与を明言したそうだ。
対応を考えあぐねていると、悠ちゃんが梶原君と情報を共有して進に噂の存在を知らせ、今日に至ったのだと説明してくれた。



ママが関与したという一連の出来事には、どこか現実味を伴わなかった。
身内だから庇いたい気持ちもある。
ママは、故意に人を騙すような人間ではない。それなのに勧誘まがいの活動をしているということは、きっと本気でその投資ファンドの正当性を信じているのだ…。



誰が、ママにそんな入れ知恵を?



私は森田さんに問うた。

「その時、母と一緒にいた女性の名前は分かりますか?」
「…いえ、そこまでは覚えていなくて。友人に確認してみましょうか?」
「ぜひ、お願いします!」

森田さんは嫌な顔一つせず、この話を知らせてくれた友人に連絡を取り、投資話の際に同席したという女性の名を確認してくれた。
相手は、『川野』と名乗ったという返答だった。



丁重に御礼を述べて森田さん宅を辞去する。
部屋に戻ると、私達は改めて家探やさがしをした。
ママ名義の銀行通帳を探すのに、いつもの場所に見つからない。

スマートフォンから検索し、投資ファンドの詳細について自分達でも調べてみる。
投資話には特殊詐欺も多いとの記載がある。
国民生活センターのホームページにもアクセスしてみる。
事例を読めば、十中八九、ママは騙されているのだと思えた。


「…ねーちゃん、どうしよう」

ようやく事態を理解した進の声は震えていた。
母親が詐欺に関与しているかもしれない。
被害者であり、加害者であるかもしれない。

私も怖かった。
本当のことを知るのが怖い。
でも、このままにはしておけない。

「ママの職場に行こう。仕事のこと、ちゃんと説明してもらおう!」






いつも拍手をありがとうございます。
事件の様態が見えてきたでしょうか。緊迫モードが続きます。
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4 Comments

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2019/10/03 (Thu) 11:35 | REPLY |   

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2019/10/03 (Thu) 20:19 | REPLY |   
nainai

nainai  

ゆ様

こんばんは。コメントありがとうございます~(*'ω'*)

今作でトラブルの種を持ち込むのはママです。原作のパパより、今回のママのしでかしたことの方がよほど質が悪いかもしれません💦
類とつくしが見据えていたのは花沢家との関わり方でしたが、まったく思わぬところで足を掬われてしまうのです。第35話の幸福な時間からの暗転。つくしの選ぶ道は……なんとなくお分かりでしょうか。

しばらくは緊迫モードが続きます。よろしくお付き合いくださいませ。

2019/10/03 (Thu) 22:14 | REPLY |   
nainai

nainai  

ふ様

こんばんは。コメントありがとうございます(*'▽')

幸せに向かって突き進んでいく上昇型の物語かと思わせての急降下。いやはや、ゾワゾワさせて申し訳ございません(;^ω^) 突き落とした分、最後はしっかり引き上げますので、その過程を見守っていただければと思います。

身の回りに潜んでいる落とし穴。現実世界でも本当にあり得てしまいそうな題材を選びました。そこに今作で描きたかったものを集約させていきます。よろしくお付き合いくださいませ。

2019/10/03 (Thu) 22:27 | REPLY |   

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