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視線 ~39~

Category*『視線』
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イルミネーションを見た夜、牧野と約束を交わした。

12月28日は土曜日。
日が変わっても一緒に過ごそう、と。

婉曲な言い回しの意図が伝わったかどうかは分からない。
でも、彼女は嬉しそうに頷いてくれた。


その日、17歳になる牧野。
すでにプレゼントの購入は済ませていた。
それを手渡した時の笑顔を想像するだけで、自然と口元が綻んだ。




だが、約束は果たされなかった。
渡せなかったプレゼントは、俺の部屋のクローゼットに無造作に置かれている。

振り返ってみれば、前兆はあった。
クリスマスの夜、牧野からのメッセージは届かなかった。
いつもなら帰宅を知らせる連絡が必ず入るのに―。



*****



その週、俺はフランスから訪日した父の友人を歓待するよう指示されていた。
ブロス夫妻は両親の古くからの友人であり、仕事上での関わりも深い。

親日家の彼らは関東圏の名所に詳しく、行きたい場所も驚くほどたくさんあった。
また、夫妻には俺と同学年の娘がいて、日本への留学を検討している彼女に英徳大学を案内することも約束していた。

彼らは本邸に宿泊したため、俺は両親の代わりにホストとしての役割を果たした。
本来は望むべくもない役割だったが、牧野のこともあり、両親の心証を悪くしたくなかった。そして父は、俺がそう考えることを見越していたと思う。

クリスマスの夜は遅くまで、彼らと都内のイルミネーション巡りをした。
邸に帰り着いた時には疲れ果てていて、スマートフォンを確認することなく早々と眠りについた。



翌朝、牧野から何も連絡がなかったことに気付いた。
いつも律義に家に帰り着いた旨を知らせてくれるのに。
電話をしても応答せず、メッセージを送っても既読がつかない。

俺は、馬場に、昨夜の彼女の様子を確認した。
すると、「繁忙期のためか、大変お疲れのご様子でした」と彼は答えた。

まだ眠っているのだろうか?
その日も朝から出かけることになっていたので、牧野のことが気がかりではあったが、それ以上の連絡はしなかった。


夕方になり、ようやく牧野からメッセージが届く。
インフルエンザに罹患したため、しばらく会えないという内容だった。
誕生日のお祝いも延期したいという彼女に、当然ながら俺は見舞いを申し出た。
だが、うつしてはいけないからと固辞され、体調が戻ったら連絡すると返される。

やり取りはすべてメッセージアプリを通じたものだった。
俺は彼女の言葉をそのままに信じた。
疑う理由などなかったから。


このとき、俺は、牧野家に起きた非常事態を知らずにいて。
彼女がどんな心理状態でメッセージを送ってきたのか、考えることもなかった。




ブロス家は数日間、本邸を拠点に様々な場所へと足を延ばした。
彼らとの交流の中で、俺は父の意図を知ったように思う。

夫妻は、俺に、両親の結婚前のエピソードをたくさん話してくれた。
そして俺の交際相手のことを訊き、ぜひ会いたかったと言ってくれた。
牧野がここにいたなら、快活で陽気な一家とは馬が合ったことだろう。

つまり、今後を見据え、彼らと面識を得ておくようにという意図だったのだろう。
それならそうと早く言ってくれればいいのに。




12月30日午後4時。帰国するブロス家の三人を空港で見送ると、ようやく得られた自由に俺はため息をついた。やはり慣れないことをするものではない。

体調がまだ戻らないのか、牧野からその旨の連絡がない。
この数日間、こちらからメッセージを送っても、とにかく反応が薄かった。
彼女の誕生日の日でさえ。
よほど病態が重いのかと心配になる。


年の瀬が迫り、いよいよ両親が帰国する。顔合わせの日時も決めかねている。
インフルエンザの隔離期間は終了したはずだから、今日は何といわれようと彼女と会うつもりでいた。

改めて考えると、終業式の日から牧野の姿を見ていないし、この数日はその声すら聴いていない。一目でも、わずかな時間でもいいから会いたかった。



『今、羽田。 体調はどう? これから会いに行くよ』

彼女のNOは聞かないつもりでメッセージを送る。
すると、これにはすぐに返事が来た。

『体調が戻ったので、今は出かけています。用事が済んだら連絡するね。』
『病み上がりなのに大丈夫?』
『もう大丈夫。これからの予定は?』
『ない。自宅に戻る。今、電話できる?』
『ちょっと難しいの。ごめんなさい。後から連絡するね。』


このやり取りに、俺は違和感を覚えた。
文面にはどこか余所余所しさがあったから。
それに、体調が戻ったのなら、なぜ連絡をくれないのだろう。

自宅に帰り着いた後、ベッドの上で悶々としつつ牧野からの連絡を待つ。
『出かけている』という表現は、いつものアルバイトとは違う気がした。
だとしたら、この寒い中、彼女はどこに出かけているのだろう。



唐突にスマートフォンが鳴る。
牧野からだった。




時刻は午後6時半。
すでに夜の帳が下り、邸の周辺は真っ暗になっている。
今夜は冷え込みがきつく、吹き付ける風も驚くほど冷たかった。

門扉を出てすぐの街灯の下で、牧野がポツンと一人で待っていた。
彼女はなぜか邸内へ入るのを拒み、俺に外まで出てきてほしいと頼んだ。



「牧野!」

俺を振り返った彼女は病後のためか、面窶れした様子で顔色も蒼白い。
それでも、ふんわりと微笑んでいた。

「寒いからうちに上がって」

近づいて腕を取ろうとすると、彼女がすいと後退ってそれを躱す。
やっぱり変だ、と困惑を深める。

「どうし…」
「類」

牧野が俺の声を遮る。
その声が強い緊張を孕んでいて、俺は更なる不審を抱く。



「今日は、類に…」

奇妙に空いた間。
言い淀む様子を見せながらも、彼女は一息に告げた。

「類に謝らなくちゃいけないことがあって」



何を言われたのか、よく分からなかった。
謝るって、何を?






いつも拍手をありがとうございます。次話も類視点です。
連載は4ヶ月目に突入。なかなか更新ペースを上げられず申し訳ございません💦
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2 Comments

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2019/10/07 (Mon) 08:49 | REPLY |   
nainai

nainai  

み様

こんばんは。いつもコメントありがとうございます(*'ω'*)
コンスタントに更新しつつも連載は4ヶ月目になりました。2日に1回は自分にはちょうどいいペースなんですけどね。何分にも話が長いので…💦

今作は一人称形式なので、片方の視点でしか事実が見えてきません。み様の疑問にはいずれ答えが出てきます。苦しい状況下で、つくしが、類が、どのように現実を受け止め、悩み、成長していくのか。後半はその点に着目していただければ嬉しいです。


気候不順の折、み様も元気にお過ごしくださいね。更新&執筆頑張ります!

2019/10/07 (Mon) 22:28 | REPLY |   

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