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視線 ~43~

Category*『視線』
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俺は、終業式以降の牧野とのやり取りを明かした。
総二郎は一切口を挟まず、最後まで話を聞いた。

牧野の身辺を調査するのに、花沢の情報網を使いたくない事情もあった。
使えば、情報を精査する間もなく、両親に筒抜けになってしまうから。

「詳細が分かり次第、連絡する」
「…頼むね」

任せろ、と口角を上げて笑った親友に、小さく礼を述べる。



祖父から呼び出しがあったのは、同日午後。
俺は宗像邸に足を運ぶ。
母屋の方に顔を出すと、難しい顔をした祖父と伯母が待っていた。

「…類さん。これはどういうことなのかしら」

座卓の上に置かれていたのは、牧野からの“ご挨拶”の品。
先ほど宅急便で届けられたという。
発送日は、スマートフォンと同じく12月30日。
それに添えられていた手紙を手に取る。


手紙は時候の挨拶から始まり、親の転勤による引っ越し、それに伴う俺との別れ、指導を受けたことへの御礼等が綴られていた。
祖父の指導の成果もあってか、ペン文字の筆跡は丁寧で美しく、それが一層、彼女の心を見えなくする。

この手紙を、どんな気持ちで書いていたの?

読み終えた手紙を三ツ折りに戻すと、ため息がこぼれた。
俺は、言葉を選びながら、事の次第を二人に説明した。



「…お前は、どうしたい?」

すべてを聞き終え、祖父が問う。

「筆跡からも分かる。牧野さんには迷いがないようだ」
「俺は納得していません。別れる気もありません」

最後に会った日の、面窶れした寂しそうな微笑が心に残っている。

「何も知らないままです。…もう一度、彼女に会って話がしたいです」



祖父の持つネットワークは緻密だ。情報の拾い出しが期待できる。
大きく頷いた後で、彼は俺に問いかけた。

「人が必死に隠していることを暴くのには、それなりの覚悟が要る。どのような結果が待っていても、お前には受け止める覚悟があるな?」
「もちろんです」
「…いいだろう。この件を預かろう」

俺は深く頭を下げた。
宗像邸を辞去し、その足で牧野のアルバイト先の千石屋に向かった。




「…クリスマスの日、牧野さんは珍しく遅刻をしましてね」

そう話してくれたのは千石屋の女将だ。
彼女とは面識がある。急に訪ねてきた俺を不審がる様子もなく、バックヤードに招き入れて話をしてくれた。

「あの日は開店前から入るシフトでしたが、ご家庭のことで急用ができたらしく、松岡さんと入り時間を代わりました。それでも間に合わなかったんです」
「どんな様子でしたか?」
「ひどく疲れている様子でした。ミスも多かったですし。…シフトを詰めすぎたのかと心配しましたが、そうではなく何か気がかりなことがあるようでした」

牧野は、ここでも父親の転勤を理由にバイトを辞めていた。引っ越しの準備があるからと、12月29日まで概ね予定通りのシフトで働き、仕事納めをしたという。
インフルエンザに罹患していたというのは、嘘だったことが判明する。




「クリスマスの日、つくしの様子は本当に変でした」

きっぱりと断言したのは、牧野の親友の松岡優紀。
運転手の馬場は、送迎の際に彼女のことも自宅まで送り届けていた。
そのため自宅に赴き、会って話を聞くことは容易だった。

「商品の陳列を間違えたり、レジ打ちをミスしたり…。どうにも様子がおかしいので、体調が悪いのかと思ったんです。…でも、今思えば、引っ越しのことを考えていたんだろうと思います」

牧野の口から、引っ越しという単語が出てきたのは12月28日のことだった。
彼女はそう記憶している。


「引っ越し先は聞いてる?」
「それが…しばらくはご両親と離れて暮らすんだと言って…。住所が確定したら、こちらから連絡すると言われました。尋ねても詳細を話さないんです。…意図的に情報を隠されているように感じました」

牧野はスマートフォンが使えなくなる旨も、彼女に事前に説明していた。
やはり、最初から俺と別れるつもりでいたのだと再認識する。


「俺のことは、何か話さなかった?」
「もちろん聞きましたよ! 花沢さんとはどうするのかって。…そしたら、つくし、泣き出して…。別れることになった、と言ったんです」
「…彼女に最後に会ったのは?」
「12月29日です。引っ越しは年明けだと聞いていて、当日は見送りをするつもりでいました。…でも、年が明けてつくしが電話をしてきて、自分と進君だけ先に親戚のうちに行くことになったと言ったんです。急なことでゴメン、と電話口でまた泣かれて…」
「電話があったのは?」
「1月4日の午後2時です。公衆電話からでした」


俺はできる限りの情報を聞き出し、それをメモした。
牧野の様子がおかしくなったのは12月25日で間違いなさそうだ。
メッセージが来なくなったのもその日からだった。
詳細が分かり次第、知らせることを約束し、俺達は松岡さんと連絡先を交換した。




松岡家を辞去して外に出ると、辺りは暗くなり、雪がチラついていた。
今冬の初雪は牧野と一緒に見たことを思い出し、また胸が疼く。


今、どこにいるの?
あんたが泣いているんじゃないかと考えるだけで、頭がどうにかなりそうだ。






いつも拍手をありがとうございます。
類は、つくしの足跡を辿ります。

*****

台風19号による被害の大きさに胸を痛めております。
被災地の皆様にあっては苦しく、つらい状況にあることと思います。お見舞い申し上げるとともに、一日も早く事態が収拾されることを願ってやみません。
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