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視線 ~49~

Category*『視線』
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道明寺家のリムジンには、一度だけ強引に乗せられたことがある。
遠目に見る車がそれと同じかどうか、確信はなかった。
それでも不安は自ずと募っていった。

わずかでも可能性がある限り、なんとしてもこの場を回避したいと思った。
あたしは、もう二度と、周囲の視線を集めるようなことはしたくない。


「…あのっ。あたし、忘れ物したみたい!」

少し大きな声で言えば、鈴原さんと柴田さんが揃ってこちらを見た。

「教室に取りに戻るから、二人とも、先に帰ってて」
「鍵、もう閉められたかもしれないよ。先生に言わなきゃ」
「大丈夫? ついて行こうか?」
「ありがとう。でも、遅くなるからいいよ。気持ちだけもらっておくね」


バイバイと手を振り合い、あたしは急いで校舎の方へと引き返した。
二人の姿が正門の向こうに消えるのを確認してから、方向を変えて裏門を目指す。
南側の正門とは別に、東側には裏門が設けてあることを、あたしは知っていた。

暗くなってきていることもあり、裏門を利用する生徒の数は少なかった。
自転車に乗って校外に出ると、一路、自宅を目指した。

あたしは周囲に注意を払わなかったし、後ろを振り返ることもしなかった。だから、あたしの姿を見つめる視線がそこにあったことに、まったく気づいていなかった。



渡部家は、県境を越えてすぐの住宅街の中にある。
人通りの少なくなった路地を、街灯と自転車の灯りを頼りに疾走する。
普段は30分かかる道のりを、数分以上早く走ったために息が切れた。
喉の奥に血の味のような苦みを感じながら、最後の曲がり角を曲がった時だった。


「……っ!!」


進路を塞ぐように停まっている一台の車。
夕闇に溶け込むような漆黒の流線型。
ナンバーは品川。
待ち伏せされていたことに気付いたのは一瞬のち。

驚いて自転車を止めたあたしの前で、後部席のドアが開いた。
ドクドクと胸が鳴る。
誰が、と考える間すらなかった。



特徴的な髪型が目に留まる。
街灯をバックにこちらを向いて立つ長身の影は、確かにあたしが記憶していた彼。


「…よぉ」


影が片手を上げる。
それを、身動きできぬままに凝視していた。


どうして?
言葉は、喉の奥に張り付いて出てこない。
どうして、ここにいるの?

東京から300km弱。
車で来るにしてもそれなりに遠いこの場所に、なぜ彼が?




「おい。驚きすぎて声も出ねぇのかよ」

その反応を、彼はどこか面白がっている節さえある。
あたしは、ふるふると首を振った。

「…相変わらずだね。…道明寺」
「まぁな」
「よく、ここが分かったね」
「うちは警察に顔が利くからな。造作もねぇよ」
「そっか…。それじゃ、隠しようもないか…」


きっと彼らは、牧野家に起きたことも知ってしまっただろう。
最寄りの警察署には詐欺の被害届を出してしまっている。


「…知ってるんでしょ? 全部」
「あぁ。…ちょっと場所移そうぜ。ここじゃ寒くて話にならねぇ」

リムジンに乗るようにと手で促される。
車中には誰の姿もないようだった。
あたしは、もちろん躊躇した。


「…今は親戚のうちにお世話になってるから、勝手なことは…」
「なら、一言断ってくりゃいいだろ」
「でも、何て言えばいいの? 普通の高校生は、夜、出歩かないものなんだよ」

そう言えばニヤッと口角が上がり、道明寺は楽し気に言う。

「何なら、お前んちに上がらせてもらってもいいんだぜ?」
「いっ、いいわけないでしょーが。…もう! ちょっと車の中で待ってて」

言い出したらテコでも動かない男だ。
目的を果たすまで、東京には帰らないだろう。
それなら、交渉するだけ時間は無駄になる。




あたしは自転車を停めて家の中に入り、都さんと進にこれから出かける旨を伝えた。友人が東京から会いに来てくれたから、と説明する。
当然ながら、二人は驚いていた。

「ねーちゃん、ここの住所を知らせたの? そんなに親しい人?」

進が不思議がるのは無理もない。
こちらから知らせたわけではない。あちらが調べてやってきたのだから。

「うん…。短い間だったけど、親しくさせてもらってた人なの…」

その言葉にはやや語弊があるけれど。


世界的大企業の御曹司で。
集団イジメの元首謀者で。
元彼の親友で。


そうした情報は何一つ明かすことが出来ずに、あたしは都さんに頭を下げた。

「勝手を言ってすみません。…友人はすぐ東京に戻らなければいけないので、少し話をしてきたいのですがいいでしょうか…」

都さんが、それならここに呼びましょうよ、と言い出さないか心配だった。
彼のことを、どう説明したらいいか分からないから。
だけど、都さんはそうは言わなかった。

「年頃の娘さんを預かっている身だからね。すんなりOKしてあげられないんだけど。…でも、せっかく来てくださったのよね? 相手は車なの?」
「…はい」
「じゃ、門限を決めましょうか。午後9時でどう?」
「十分です」
「私の携帯を持たせるから、何かあれば自宅の電話に連絡してちょうだい」



都さんにあまり詮索されなかったことにホッとする。
あたしは携帯電話を借り受け、部屋で制服から私服に着替えて家を出た。
リムジンは先ほどと同じ場所に停まっていて、あたしが近づくと運転手さんが後部席への誘導を行ってくれる。
中では、道明寺がやや不機嫌な様子で待っていた。

「遅ぇよ」
「…待たせて悪いとは思うけど、あたしの都合だってあるの。急にやってくるアンタが悪いんだからね!」
「予告したら、逃げるだろ」

…それもそうか。

「門限9時までだから、それまでにはここに帰して」
「…約束はできねーが、努力はする」

あたし達のやり取りは、まるで最後に会った日の延長のような軽妙さで。
だからだろうか。
心の負荷がわずかに軽くなっていくのが分かった。


リムジンはあたし達を乗せ、滑るように走った。
目的地は、告げられていない。






いつも拍手をありがとうございます。
道明寺家のリモは黒、花沢家は白のイメージで書いています。ナンバープレートは品川にしました。細かい所に拘りだすとキリがないですが…(;^ω^)
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2 Comments

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2019/10/27 (Sun) 21:27 | REPLY |   
nainai

nainai  

て様

こんばんは。コメントありがとうございます(*´ω`*)

司現る!の回でした。私の作品の中では司の出番は少なめ、という傾向があります。キャラクターが強いので上手く動かせないんですよね…。どうしてもケンカ腰になってしまうし…。
それでも、ここはひとつ、司に良い働きをしてもらおうということで満を持しての登場です(*ノωノ)

目的地はどこか。て様の予想は当たるでしょうか。相変わらず長期連載になっておりますが、どうぞ最後までお付き合いくださいませ。

2019/10/27 (Sun) 23:13 | REPLY |   

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