FC2ブログ

視線 ~62~

Category*『視線』
 2
海の日が来る頃には、本州の広域で梅雨明けが宣言された。
真っ白な雲と真っ青な空は、夏ならではの鮮やかなコントラスト。
気温もぐんぐんと上昇している。


今日は7月24日金曜日。
放送部では、夏休み前の終業式に引継ぎを行うのが慣例となっている。

放送部の活動内容は、週2回の校内放送や学校行事の司会進行、そして放送コンテストへの参加などだ。在籍期間が短いあたしに出来ることは少なかったけれど、部活は楽しかった。

一昨日まで行われていた全国大会には、深幸ちゃんが朗読部門で出場を果たした。
結果は準決勝敗退だったけれど、彼女はよく健闘したと思う。
3年生のコンテスト参加はこれが最後。引退となる。


「深幸先輩。コンテスト出場、お疲れ様でした」
「3年生の先輩方、今日までお疲れ様でした」
「これからは後輩一同、協力して放送部の運営に努めて参ります!」

よく通る声で引退する5人を労うのは、新部長達。
文化部の引退は秋の学祭であることが多いけれど、うちの高校は県内有数の進学校でもあるから、その辺りの線引きはやや厳しめだ。


形式的な引継ぎ式が終わると、いつものお茶会が始まった。
部室に冷蔵庫があるなんてどういう優遇だろう、と可笑しくなる。
話によると卒業生が持ち込んだものだとか。顧問の先生は黙認してくれている。
うちわ片手に冷たいアイスティーで乾杯をし、持ち寄りのお菓子を机に広げた。

あたしが所属していた期間はたった半年間。
それでも、何年も所属していたかのような居心地の良さを味わわせてもらった。
勧誘してくれた二人や温かく迎え入れてくれた部員達には、感謝の言葉しかない。




その帰り道、いつものように自転車を押しながら、岐路までを歩いた。
来週からは特別課外授業も始まり、受験モード全開の夏休みが待っている。
そんな折だった。

「つくしちゃんって、東京の大学を受験するの?」

唐突に深幸ちゃんが投げかけてきた質問に、あたしは驚いて足を止めた。
数歩先で振り返った二人には、少し寂し気な表情が浮かんでいる。

「…どうして?」
「友達に聞いちゃった。進路指導の先生に資料をお願いしたんだって? 三橋大って、東京の国立よね?」


三橋大学の資料請求をしたのは事実だった。
進路指導室を利用したとき、別のクラスの男子生徒も近くにいたことを思い出す。
彼は、深幸ちゃんの友達だったんだ…。

「最近ずっと浮かない顔してるよね。…悩み事があるなら言ってほしい」
「私達が気付かないわけないでしょ。いつも一緒にいたんだから」

諒子ちゃんも言い添える。


クラスも部活も同じで。
休みの日も一緒に勉強したり遊んだりして。
あたし達は、短いながらもぎゅっと濃縮された時間を共有した。
普通の高校生らしく、本当に楽しい毎日だった。

迷った末に頷く。
まだ明かせないことはあるけれど、あたしは二人のことが大好き。
だから、嘘はつきたくなかった。

「…三橋大の受験を視野に入れてる。…でも、ずっと迷ってて」

オーナーと希和子さんに会ったのが先月中旬。
その席で、オーナーからある提案をされた。

「…東京に戻ってきてほしいって言われてて。…でも本当にそうしていいのかって」



7月に入ると、あたしの元には一通の手紙が送られてきた。
差出人の名は、花沢類―。



便箋は三枚。そのすべてが直筆だった。
あたしはそれを何度も何度も読み返した。

類がどんな気持ちでこの数ヶ月を過ごしてきたのか。
仔細を知って、涙が止まらなかった。

同封された新幹線のチケットは、豊橋から東京までの片道分。
指定日時は明日の午後。
7月25日、13:30発。




あたしは、決断を迫られていた。




「言われてるって誰に? …もしかして元カレ?」

諒子ちゃんに向けて、こくりと頷く。

「戻ってきてほしいって言っても、向こうでの生活はどうするの?」
「彼の家族が協力するから、何も心配いらないって…」

類の手紙には、花沢夫妻の意向も記されていた。
あたしの懸念することのほとんどは解決済みだ、と彼は示した。

「前向きに考えてもらえるなら、一度会いに来てほしいって、新幹線のチケットが送られてきたの」
「いつ出発?」
「明日…」

沈黙が下りる。
二人が困惑している様子が直に伝わってきた。

普通に考えれば、そういう反応は当然のことだ。
突飛なことを話しているという自覚はある。




「…まだ、好きなんだよね?」

諒子ちゃんが声を張る。
真っ直ぐに胸を貫くような、澄み切った声だった。

「誰に告白されても心は揺れないんでしょ? ずっと忘れられない人なんだよね?」
「……うん」
「なら、答えは一択じゃん。飛び込んじゃえ!」


「お別れの時、一方的だったんだよね? だったら、ちゃんと会って話してきなよ。このまま宙ぶらりんはお互いにとって良くないよ」

深幸ちゃんが笑う。
眼鏡の奥の瞳が優しく和む。

「万が一、うまくいかなかったら戻っておいで。私達がうーんと慰めてあげる」



逆の立場なら、あたしもきっと相手にそう言っただろう。
好きなら、忘れられないなら、会いに行くべきだ、と。



息を吸う。
大きく、深く。
カラカラに乾いた夏の匂いがする。




心は、決まった。




「応援ありがとう。…あたし、行ってくる」
「よしっ!」

諒子ちゃんがガッツポーズを作る。

「会って、自分の気持ちをちゃんと言う」
「それがいいよ」

深幸ちゃんも大きく頷いた。


あたし達は右手で拳を作り、空中で軽く突き合わせた。
それは部活でいつも使っていたグータッチ。

“頑張れ!”

明るく笑い合い、次の交差点で手を振って別れた。




澄みきった空の青は茜色へ。
西日を背に受けながら自転車をこぎ、あたしは家路を急いだ。



もう迷わない。
類に、会いに行こう。






いつも拍手をありがとうございます。
ジレジレ展開の連載もようやく佳境へ。二人の再会の時近し、です。

11/20にカウンターが160,000HITを超えました。ご訪問ありがとうございます(*^-^*)
連載は年内には完結予定です。最後までよろしくお付き合いくださいませ。
関連記事
スポンサーサイト



2 Comments

-  

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2019/11/22 (Fri) 10:01 | REPLY |   
nainai

nainai  

ゆ様

こんばんは。コメントありがとうございます(*^-^*)

類にはつくしに伝えたいことがたくさんあります。それを余すことなく伝え、しっかり理解してもらうために、手紙を書くことを決めました。迎えに行くのではなく待つことを選んだのも、つくしの意思を尊重したかったからです。
類はつくしに対して、どこまでもフェアでありたいと願っています。つくしは親友達の後押しを受け、ようやく決心を固めます。

本作でトライしてみたかったことの一つが、この“類の手紙”でした。まだ推敲中なのですが、そこそこの出来上がりになったかと思います。どうぞお楽しみに(*^^)v

2019/11/22 (Fri) 23:24 | REPLY |   

Post a comment