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視線 ~63~

Category*『視線』
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「俺、知ってたよ。ねーちゃんに彼氏がいたこと」

諒子ちゃん達と別れて数時間後の夜。
折り入って相談があると持ち掛けた弟にサラリとそう返されて、あたしは動揺した。


「…いつから?」
「静岡にいた頃。東京からわざわざ会いに来てくれた人がいたじゃん?」

道明寺のことだ。

「あ…、あの人は違うよ?」
「分かってる。…あの夜、ねーちゃんがなかなか帰ってこないから、俺、それなりに心配してさ。帰ってからも、工房の方で都さんと長いこと話してたろ?」
「うん」
「悪いと思ったけど、その時、二人の話を立ち聞きしたんだ…」
「…そっか」


あの夜、あたしは泣きながら、都さんに苦しい胸の内を明かした。
すごく好きな人がいた。だけど、事情を明かせぬままに別れてしまった。
相手やその家族に、ママのことを軽蔑されたくなかった。
同様に、パパやママに、相手のことを金づるのように思われたくなかった、と。


進、あれを聞いてたんだ…。
その事実を知り、にわかに恥ずかしさがこみ上げる。


「ねーちゃんの声が掠れてて苦しそうで…。相手のことが本当に好きだったんだろうと思った。正月に、都さんのうちで暮らすことが決まった時もねーちゃんは泣いてたけど、俺、その涙の意味を全く分かってなかったなって…」

進は、真剣な顔で中空を見上げている。

「俺、付き合ってる子はいなかったけど、仲のいい友達はいたから、あんな事があってどうしようもなくつらかった…。
裕福じゃないけど真面目に頑張ってきたつもりなのに、後ろ指を指されるような家族になってしまった。これからどうなってしまうんだろうって。
噂を知らせてくれた梶原も森田も決して俺に批判的じゃなかったけど、皆が皆、同情的だとは限らない。…軽蔑されたくなかった。とにかく周囲の目が怖かった」

うん、とあたしは頷く。


「今は、両親とも心を入れ替えて頑張ってるし、お金も少しずつ返済していってる。状況は明るくはないけど、悪くもない。…ねーちゃんの相手が、あの一連のことも全部知った上で東京に戻って来てくれって言うなら、相当な覚悟があるよ」
「…もし、あたしが東京の大学に受かって、この家を出て行ってしまっても、パパやママは大丈夫かな…」
「それは、俺がなんとかする」

進は笑う。
まだあどけなさを残していた以前とは違い、意志の強さを見せる笑顔。
彼も日々成長して、大人に近づいていっていることが分かる。

「大学進学で、親元を離れて独り暮らしする学生だっているんだしさ。18歳ってある意味で人生の節目じゃん? 親が頼りないのって正直どうかと思うけど、反面教師にすればいいし。定期的に都さんも様子を見に来てくれるし、今後のことはなんとかなると思う」
「…でも」
「たぶんさ、親のことを甘やかすのも良くないんだと思うよ。ねーちゃんは、ちょっと優しすぎる気がする。もっと自分の気持ちを優先しなよ。親離れ・子離れ上等じゃん?」


親離れ・子離れ…。
進からそんな言葉が出てくるとは思わず、あたしはビックリした。
あの事件を通じて、進は進なりにいろいろ考えていたんだと思うと、そして、その結果がこの客観視かと思うと驚きだった。



それよりさ、と進は話を転じる。

「三橋大って国立の難関だろ? 受かるかどうかの心配は?」
「こないだの模試ではB判定だったけど、まだまだだよ」
「マジで!? ねーちゃん、頭いいんだ」
「進の方は? うちの高校受験するんでしょ?」
「D判定…」
「お互い、勉強頑張らなきゃだね」

あたし達は小さく笑い合う。
進に相談してよかった、と思った。




翌朝、あたしは両親に東京まで出かけてくることを告げた。
その目的についての言及はあえて避けた。
優紀に会いに行くのだと言えば、二つ返事でOKが出た。
あたしの嘘を理解している進は平静を装ってくれた。



豊橋駅へは余裕を持って到着した。
夏休み最初の週末となった今日、構内には家族連れが多く、活気に溢れていた。

チケットはグリーン車の指定席。
東京までは、1時間半にも満たない旅程。
熱気に満ちるプラットホームで指定号車の列に並び、新幹線の到着を待つ。

予定通りにホームに滑り込んだ新幹線に乗り込み、席を探し当てる。
狭い車窓から見上げた空は昨日と同じで、青く澄み切っていた。
隣は空席のままで、あたしは誰に気兼ねすることなく感傷に浸ることができた。


類から送られてきた手紙を鞄から取り出す。
内容はもう諳んじて言えるほどだったけれど、彼の直筆に触れたくて便箋を開く。

几帳面な文字が並ぶ。
時々は書き損じもあり、彼も言葉に迷いつつ、想いを綴ってくれたのだと分かる。
一文一文を指で辿りながら、類の柔らかな声をリプレイした。






いつも拍手をありがとうございます。
次話は、類の手紙からのスタートです。
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3 Comments

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2019/11/24 (Sun) 11:30 | REPLY |   

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2019/11/24 (Sun) 11:37 | REPLY |   
nainai

nainai  

ふ様

こんばんは。たくさんのコメントをありがとうございます(*^-^*)
まず2通分を纏めて、返信させていただきますね。

“類の手紙”は、今作でトライしてみたいと思っていたエピソードでして、苦心惨憺の末に書き上げました。類にはつくしに会えなかった半年分の想いがあるのですが、これは語らせるより書かせたいなぁと思ったのです。どうぞお楽しみに!

千恵子の起こしてしまった事件を経て、類も、つくしも、進もそれぞれに精神面での成長を遂げました。主人公達だけに焦点を絞れば、もう少し話の進行は早いと思うのですが、群像劇が好きな私としてましては、どうしてもこのような展開になってしまうわけです(;^ω^) 

私自身は、ふ様にそのように仰っていただけるような人物ではないのですが、たっぷりの愛情を注ぎながら執筆しています。最後まで楽しんでいただければ幸いです。

2019/11/25 (Mon) 01:13 | REPLY |   

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