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視線 ~64~

Category*『視線』
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牧野に手紙を書くのは初めてだね。
今、会えたとしても、自分の気持ちをちゃんと伝えきれる自信がない。
だから思っていること全部、文字に起こしてみることにした。

先日は祖父と母に会ってくれてありがとう。
二人は、牧野と話せてよかったと言っていた。
元気そうにしていたという報告を聞いて安心している。


家族で苦しい状況を乗り越えたからこそ、今の暮らしを確立できたんだろう。
だとしたら、牧野の判断は正しかったと言わざるを得ない。

でも、本当を言えば、頼ってほしかった。
世の中の大抵のことはどうにかできると思い込んでいたけど、肝心なところで俺は役に立てなかったんだと分かってショックだった。
だけど、あの時の牧野は俺以上に目の前の現実に困惑し、傷ついていたんだろうと思う。力になってやれなくてごめん。


行方が分かった時、本当はすぐにでも会いに行きたかった。
だけど、いざという段になって迷いが生じた。
また拒絶されるかもしれないと思うと、どうしても前に進めなかった。

あの日、牧野が俺に残した言葉はちゃんと覚えている。
何が問題だったのか。俺に何が足りなかったのか。
でも、諦めたつもりはなかった。
新たな可能性を模索するためには、俺自身が変わるしかないと思った。


親の庇護下ではなく、俺個人の力で牧野を守れるようになりたい。
そのために、今の自分にできることを手当たり次第にやってみた。

資格試験の勉強はそれなりに順調。
この週末にも大きな試験が控えているけど、なんとかクリアできそう。
苦手だった人間関係の構築にも努めている。
会社の研修にも参加して、自分なりの展望を描いている。

その甲斐あってネットワークも経験値も充実してきたし、周囲から新たな知見を得ることもあって視野も広がってきた。
井の中の蛙状態だった俺も、少しは成長できたように思う。


だけど、どれだけたくさんの人や物事に出会っても、心の空洞は埋まらない。
むしろ、日を追うごとに空洞は広がっていく。
それを埋めることができるのは、やっぱり牧野だけだと思い知らされた気がした。

所詮は10代の恋だと、幼くて不確定なものに思われがちだけど、俺は牧野との間に確かな絆を感じていたし、あの特別な感覚は誰とも共有できないと思う。
牧野はどう? そうは思ってもらえなかった?


両親には、改めて俺の意思を伝えてある。
父に反対はされなかった。母が口添えしてくれたんだと思う。
牧野家のご両親との付き合い方も、俺なりにちゃんと考えている。

たぶん、牧野が考えているほど、残された問題は多くない。
あったとしても、きっと一つずつクリアしていけると確信している。



二人で交わした約束は今でも有効だよ。

プラネタリウムより美しい星空を見に行こう。
ミステリー映画の結末を一緒に見よう。
これからのお互いの誕生日を祝おう。

俺の中では何ひとつ終わっていない。
果たされる瞬間を、ただ待っているんだ。


俺は、牧野にこそ認められたい。
牧野にとって、必要不可欠な存在なんだと認められたい。
今でも、ずっとそう願っている。



これからのことを、もう一度話し合いたい。
今度こそ隠し事はなしで。
それを申し出るのは、自分の中で踏ん切りがついてからと思っていたけれど、牧野の大学受験を考慮するなら、もう先送りにすべき時期ではないと祖父に指摘された。


俺達の未来にまだ可能性があるなら、同封したチケットの日時で会いに来てほしい。
俺が迎えに行くのではなく、牧野の意思で戻ってきてほしい。

当日は、プラットホームで到着を待つよ。
もし来てくれなくても、未練がましく待つことはしないから安心して。


俺の傍にいることで、普通ならしなくてもいい苦労をさせることになると思う。
我慢や無理をさせたくなくても、そうさせてしまうこともあるかもしれない。
だけど、俺達を支えてくれる多くの人達がいることを忘れないで。

この手紙が届いてからも、考える時間は十分にある。
熟考の上で、俺との未来を選択してくれたら嬉しい。


                                類






折り目通りに手紙を畳み、そっと胸に抱く。
ごめんね、と心の中で何度も唱える。

道明寺に指摘されたことが、今も胸に刺さっている。
あたしは自分や家族にとってのベストを選択したつもりかもしれないけれど、類にとってそれはベストではなかっただろうって。

そうじゃない、と思おうとした。
類から離れることが、彼にとってもベストなんだと信じてきた。
だけど、手紙を読めばそれこそが思い込みだったと分かる。

独り善がりでごめんね。
苦しませてごめんね。

あたしは身内の不祥事に深く傷ついていた。
だけど、明かすべきだったんだよね?
どうすればいいのか、その対応を類と一緒に考えるべきだった。


修復できないと思えた心の傷も、時間とともに瘡蓋かさぶたになって少しずつ癒えていった。
その間も、類は、あたしのことを忘れないでいてくれた。
そして、今日というラストチャンスを与えてくれた。
これ以上は、もう望めない。


あたしはまだ17歳で。
どんなに足掻いても、時間は早送りにはならないし、巻き戻しもできない。
やり直しのきかないこの一瞬を大切に生きるしかない。


たくさんの“ごめんね”を言わせてね。
同じくらい“大好きだよ”って言うから。


もう一度、あなたと同じ未来が見たい。
だから、会いに行くよ。






いつも拍手をありがとうございます。
半年分の想いが詰まった類の手紙、いかがでしたか?
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10 Comments

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2019/11/26 (Tue) 01:57 | REPLY |   

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2019/11/26 (Tue) 16:22 | REPLY |   

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2019/11/26 (Tue) 19:00 | REPLY |   

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2019/11/26 (Tue) 21:08 | REPLY |   
nainai

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は様

こんばんは。コメントありがとうございます(*^^)v

コメントを戴くのはいつでも有難いことなのですが、特に嬉しく思うことがあります。それは、誰かにとっての“初めて”と思える瞬間を提供できたと分かった時です。
今作の類の手紙が、は様にとって初めての、明るい未来を期待させる手紙だと評価してもらえたことがとても嬉しいです。頑張れ!とつい応援したくなるような彼を描きたいと思ってきましたから…。

二人の再会はどんなふうになるでしょう? 読者様を“おぉっ”と思わせることができたらなぁ、といつも思っています。どうぞお楽しみに。

2019/11/27 (Wed) 00:27 | REPLY |   
nainai

nainai  

二様

こんばんは。コメントありがとうございます(*^-^*)

素敵な手紙だと仰っていただけて嬉しいです。“好き”も“愛してる”も書いていない手紙なのですが、つくしへの想いは溢れんばかりです。
つくしの心にはいつも、“あたしなんか”という考えがありました。類のことは重く、自分のことは軽く扱ってしまうのです。類の言葉は、そうしたつくしの考えを改めさせるものだったと思います。

半年間の隔たりはそれぞれの成長を促しました。再会は間近です。
どうぞお楽しみに。

2019/11/27 (Wed) 00:31 | REPLY |   
nainai

nainai  

み様

こんばんは。コメントありがとうございます(*'▽')

ありのままの感情を綴った手紙でした。類の言葉の中には、これまでの半年間につくしが抱いてきた想いとシンクロする部分がありました。“心の空洞”ですね。
つくしは、類も同じ気持ちでいてくれたことを知り、涙し、それでも約束の日の直前まで悩み続けます。本当に自分でいいのか、という想いが絶えず付き纏うからです。それでも、諒子と深幸に背中を押され、つくしは類に会う決意を固めました。

二人の再会はどのようなものになるでしょう。これまでの作品にも再会シーンはたくさん描かれてきたと思うので、オリジナリティを大切に頑張ろうと思います。

2019/11/27 (Wed) 00:34 | REPLY |   
nainai

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ゆ様

こんばんは。コメントありがとうございます(*‘∀‘)

類は、つくしに対してどこまでも真摯に、そしてフェアであろうとしています。彼女が悩む性分だと分かっていながら、手紙の送付から約束の日まで3週間もの期間を設けて熟考を促します。類がつくしを迎えに行くのではなく、戻ってくるのを待つことにしたのも、無理強いはしたくないという気持ちからです。類の忍耐強さが表れていますね。

これからの数話は、テンポよく進めたいと思っています。まずは二人の再会がどのようなものになるか、楽しみに待っていてくださいね。

2019/11/27 (Wed) 00:39 | REPLY |   

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2019/11/27 (Wed) 02:08 | REPLY |   
nainai

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ミ様

こんばんは。コメントありがとうございます(*'ω'*)

お褒めに預かりとても嬉しく思います。“類の手紙”は言葉選びに四苦八苦しまして、UP直前まで書き直していたんですよ…。手紙文と話し言葉は微妙に違いますしね。でも、手紙という形式を選んでよかったなと思います。

つくしの心情にも共感を示してくださりありがとうございます。これまでに出会ったことのない難題に直面し、つくしも必死でした。つらい時間はもうすぐ終わりを迎えます。再会の瞬間をお楽しみに。

連載については年内完結を目指しています。その後の活動については、改めてアナウンスしますね。まだまだ頑張るつもりでいます!

2019/11/27 (Wed) 23:27 | REPLY |   

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