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Category第1章 紡いでいくもの
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桜満開の4月。
あたしは専門学校で新しい学生生活をスタートさせた。
新たな環境は、新たな人間関係を生む。
英徳高校や大学では、様々な事情から交友関係を広げられなかったあたしにも、ここでは親しい友人ができた。

一人は、山代羽純やましろはずみちゃん。
高校卒業とともにここを選んだ彼女は、あたしより2つ年下だ。
ハキハキと自分の考えを口にする子で、性格は桜子に少し似たところがある。
最終的にはウェディングドレスのデザイナーになりたい彼女とは、途中から履修コースが別れる予定だけど、それまでの基礎講座はずっと一緒になる予定だ。
もう一人は、生田菜々美いくたななみさん。
高校卒業後にフリーターとなっていた彼女だけれど、アパレルメーカーで働くうちに、服を売る側ではなく作る側になりたいと強く思うようになったらしい。
一念奮起してこの世界に飛び込もうと思っただけあって、彼女にはガッツがある。ちなみにあたしの2つ上だ。
二人とは初日に座った席が隣同士だったという出会いだったが、なんとなく気が合って、それからずっと一緒に行動している。

二人ともとてもいい人達だったけれど、あたしはまだ自分の高校や大学での出来事、―とくにF4との関係性については、ずっと伏せたままにしていた。
その縁で、東八千代先生に短期間ながら師事し、デザインの基礎を教えてもらっていたことも。
彼女達と親しくなればなるほど、あたしの過去を誤解のないように受け入れてもらいたいという思いに駆られた。でも、そうすることであたしに向けられる眼差しが変わってしまうんじゃないかという不安もあって、なかなか話し出せずにいた。



花沢類から連絡があったのは、4月下旬の金曜日だった。
あたしは、専門学校の授業カリキュラムに慣れるために毎日慌ただしくしていたし、こちらからは誰とも連絡を取っていなかった。
桜子や優紀は折に触れてメールを送ってくれたけど、その返信でさえ最低限になってしまっていて…。
昼休みにふと携帯を見ればメールが届いていて、彼の用件が短く書かれていた。
『夜、電話したい』
あたしは、帰宅後にこちらから電話する旨を返信した。
すると、話をしたいのはこちらだから、自分から掛けるとの更なる返事が。
あたしは、時間が空いたらメールをすると答えた。

その頃、あたしと弟の進は、家族4人で暮らしていた1DKのアパートにそのまま住んでいた。
専門学校1年生のあたしと、高校2年生の進。
さすがに寝るときに同室は嫌だったので、進の厚意であたしが奥の一部屋を使い、テレビの置いてある方の部屋を彼が好きに使っていた。
だからあたしが帰宅した時も、進はテレビを見ながら課題をやっていた。

「ただいま~。…って進、テレビ見ながらの勉強ははかどらないわよ」
「だって、なんか音出してないと眠くてさ…」
時刻は午後7時を回っていた。食事は当番制にはしていなかったので、基本的にはあたしが作っていた。ご飯だけは炊いておいてほしいとの伝言通り、進がセットした炊飯器は稼働中だった。
「眠いならこっち手伝いなさいよ。料理を覚えるためにも」
「え~。…う~ん。…いいよ」
進はのっそり立ち上がると、キッチンであたしの横に立った。
「で、何すればいい?」
「そこにある野菜、洗ってよこして」
「今夜のメニューは?」
「時間ないから、味噌汁と、豆腐の餡かけと、野菜炒めで」
「…定番だね」
進の口から溜め息まじりの呟きが洩れる。

進は、高校入学後からぐんぐんと身長が伸び、あたしはあっという間に追い越されてしまった。成長期の男の子の変化には本当に驚かされる。ずっと可愛い弟だと思っていた進も、大人の男性へと変遷していってるんだな、と改めて感じ入る瞬間だった。
「…やっぱり足りない? ご飯の量」
進には毎日弁当を持たせていた。自分の弁当を作るついでがあったからだけど、最近の彼の食事量を見ていると、物足りないのではないかと思えてくる。
「う~ん。…最近やたらめったら、お腹すくんだよね」
「成長期なんだね…」
あたしは進を見上げる。食費は切り詰めていたけれど、弟に空腹を我慢させるのは姉として忍びない。
「もう一品、増やそうか」
そんな話をしているときだった。


ピンポーン

不意に玄関のベルが鳴る。
「誰だろ…。進、出てくれる?」
「うん」
進が応対に出ると、すぐに驚きと喜びの声が上がる。
「類さんっ! ひさしぶり!」
「えっ? 花沢類?」
野菜を切る手を止めて、あたしが玄関を見ると、スーツ姿の花沢類が進に招き入れられて部屋に入ってくるところだった。

「…電話するんじゃなかったっけ?」
あたしが不思議そうに問うと、彼は手土産を掲げてあたしに笑った。
「美味しい肉もあるし、すき焼きしよ?」
「すき焼き!」
即座に、進が嬉しそうな声を上げる。
「ありがとう。…いいの?」
あたしは戸惑いがちに花沢類の差し出した袋を受け取る。
「俺も食べるし。最後にうどんすき作って」
「…うん、分かった」
中を見れば、見事な霜降り肉が綺麗にパッキングされている。
―これ、ぜったい普通のお値段じゃないよね…。
「あ、でも、すき焼き作るには材料が足らないかも…」
「俺、買って来るよ。メモ書いてよ」
あたしが急いでメモを書くと、進は慌ただしく出掛けて行った。
近くのスーパーまでは自転車で数分。20分くらいで帰ってくるだろう。


「進、身長伸びたね」
「うん、高校入ってからぐんぐん伸びてて…。って、それより!」
あたしは花沢類に向き直る。
「今日、来るつもりならそう言ってくれたらよかったのに…。部屋も汚いままだし…」
あたしは花沢類からスーツの上着を受け取り、ハンガーにかけて吊るしてやる。上着からは彼が好んでつけているフレグランスが仄かに香った。
机に広げっぱなしになっている進の教科書やノートを片づけてから、彼に座布団を勧める。
―あぁ、明日掃除するつもりだったのに…。

「…なんか、また牧野で元気を充電したくなってさ」
「充電って…。会社の研修、大変なの?」
まだ大学4年生の彼だが、この4月からはインターンシップ研修を受けている。
あたしが座卓を挟んで向かい合うように座ると、花沢類は首元のネクタイを緩めて、溜め息をついた。
その吐息が本当に疲れているようで、あたしは少し心配になる。
「会社にタヌキがいる」
「…はっ?」
―また何を言い出すんだか…。
「キツネもいるし、オオカミもいる」
つまり、そういう本性の人間がいると言いたいのかな?
「…お疲れ様」
「分かってたことだけどね。派閥争いがあるってことも」
花沢類はそのまま壁に凭れて、立てた片膝を抱え込む。


「あんたの方はどう?」
「あたし? 課題は大変だけど毎日充実してるよ。新しく友達もできたし」
「そう。…良かったじゃん」
花沢類はにっこりと微笑んでくれる。
彼は英徳ではほとんど友人ができなかったあたしを知っている。
本当は気安い友人を欲しがっていたことも…。
「疲れてるなら、肩揉んであげようか?」
「肩…は凝ってないかな」

花沢類はふと思い出したように言う。
「あれ頼める? …頭揉むヤツ」
あたしはずっと以前に、彼に頭のマッサージをしてやったことを思い出す。
「いいよ。じゃあ、体の向きを変えてくれる?」
あたしは彼の背後に回り込んで膝立ちをし、その柔らかい髪を梳いて頭皮に触れた。
両指の全部でぎゅっと頭を揉みあげてやると、彼は機嫌のいい声を洩らす。
「痛くない?」
「…気持ちいいよ」
「そ? よかった」
キッチンからは、ピーッピーッとご飯が炊けたことを知らせる音がした。




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2 Comments

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2018/05/24 (Thu) 11:35 | REPLY |   
nainai

nainai  

わ様

ご訪問&コメントありがとうございます。

どうにかこうにか更新しております。
展開としてはカメの歩みですが、まだまだ第1章が続きます(^^;)
表題は『紡いでいくもの』なので、二人の関係性がどう変化していくのか、どうぞ気長に見守っていてくださいね。

今回登場したオリキャラのつくしの友人も、今後はよく出てきますのでお見知りおきを…。

2018/05/24 (Thu) 13:44 | REPLY |   

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