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視線 ~67~

Category*『視線』
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迎えの車を運転してきたのは、やっぱり馬場さんだった。
柔和な笑みを浮かべてあたし達を出迎え、後部席の扉を大きく開けてくれる。

「牧野様! お待ちしておりました」
「馬場さん…」
「こうしてまたお迎えに上がることができ、大変嬉しゅうございます」
「…そう言っていただけて…あたし…」

優しい眼差しに胸が熱くなる。
馬場さんは、あたしと類の恋を見守ってくれていた一人だから。


車に乗り込むと、外界から遮断されたという安心感から我慢していた嗚咽がこみ上げてきた。抑えようとして御しきれず、小さな声が洩れる。

「……っ」
「我慢しないでいいよ」

類にそっと抱き寄せられ、泣くことを許されると、本当に涙が止まらなくなった。
あたしは類にしがみつき、募り募った彼への想いを吐き出した。
彼が、自分の想いを手紙に託してくれたように。




類と離れたくはなかった。
でも、もう会っちゃいけないと思った。


ママのしでかしたことが怖かった。
明るみになってくる事実が怖かった。
それでも、あたしは、家族を守らなくちゃいけないと思った。


深く傷ついた心。
都さんとの穏やかな生活。
新たな出会い。
ゆっくりと、でも、確かな再生。


類と過ごした日々。
輝いていた過去の記憶。
少しずつ忘れようとした。
でも、何ひとつ手離すことができずに。


あたしの中にぽっかりと開いた穴。
埋まるどころか、深まるばかりの空洞。


会いたくて、会いたくて、会いたくて…。
言葉では言い尽くせないほどの切望が、そこには潜んでいて。


類の奏でた旋律が、どこかで流れる度に心が揺れた。
日常の景色の中に、類の姿ばかりを探していた。


気が付けばいつも。
無意識のうちにいつも。



いつも、いつも、いつも―。





俺もだよ、と類が呟く。

「目に映る景色の中に牧野の姿を探してた。どこにいても、何をしていても。…記憶は色褪せるどころか、むしろ鮮明になっていった」

類の大きな手があたしの両頬を包む。
こんなに近くにいるのに、溢れ出す涙で彼の顔が滲んで見える。

「同じだろ。俺達。…離れていても気持ちは変わらなかったよ」
「…そうだね。…あたし達、同じ気持ちでいたんだね…」




ゆっくりと唇を寄せ合う。
軽く触れさせて、少し離して。

お互いの存在を確かめるように。
もう一度、目を合わせて微笑んで。

また唇を重ねて。
徐々に深くして。


それは、今までのどんなキスより、蕩けそうに甘かった。





たぶん、馬場さんは遠回りをしてくれたんだと思う。
花沢邸に着く頃にはあたしの涙は乾き、昂った感情も静まっていた。

松川さんを筆頭にお手伝いさん達が玄関に並び、あたしは温かく迎え入れられた。
彼女達は大層なもてなし振りで、細やかにあたしの世話を焼いてくれた。


和やかな雰囲気の中で夕食を終える。
あたしは客間に戻ると、備え付きのバスルームで入浴を済ませた。

脱衣所に準備されていたのは、藍色地の浴衣。
生地はさらりと肌触りがよく、小さな朝顔の柄が可愛い。
花沢邸は和風建築なので寝間着もこうなのかな、と妙に納得する。
肩先まで伸びた髪は一つにまとめて、類の部屋に向かった。



彼の部屋は、初めて来た時と何も変わっていなかった。
ローテーブルの上には、冷たいハーブティーが準備してある。
あたし達はソファに並んで座り、離れていた時間を埋め合わせるように、たくさんの話をした。


ずっと渡せずにいたプレゼントを交換し合う。
類は、あたしの誕生日プレゼントに、オフホワイトのニットワンピースを準備してくれていた。菫色のアイオライトを吊り下げるネックレスも可愛い。

あたしは、類へのクリスマスプレゼントに、マフラーを準備していた。
ネイビーブルーとライトグレーのツートーンが、色白の類によく似合っている。


今の時節は盛夏。
真逆の季節感を感じさせるプレゼントに、二人で笑い合った。





ふとした瞬間に会話は途切れ、沈黙が下りた。
予感はあった。
あたし達は、今夜、確かめ合うだろう、と。



類が、あたしの頬に触れた。
互いだけを映す瞳を見つめれば時間が止まる。
小さく頷いた。
躊躇いはなかった。






ゆっくりとベッドに沈められ、彼の重みを受け止める。
息も継げないほどの激しいキスに、体の奥が熱く疼くような感覚を覚えた。

音もなく浴衣の帯を解かれる。
前合わせの下に滑り込んでくる彼の手は少し冷たい。

初めて触れ合わせた素肌は心地よく、すぐ同じ体温に馴染んだ。
あたし達は互いを労りながら、急速に熱に浮かされていった。







アイオライトには、「道を示す」という石言葉があるそうです。
類がつくしに服を贈るエピソードは、第9話の会話からのリンクでした。

***

次回はパス付き記事です。そのような展開が苦手な方は、物語の進行に差し障りはありませんので、第69話から続けてお読みくださいね。

優しい気持ちを伝え合うような時間を書いてみた……つもりです。二人がまだ10代なので、倫理的な問題があるような気がしてきて、公開を迷う気持ちが芽生えました。ですが、婚姻可能年齢(※2019.11現在の規定)に達しており、将来を誓い合っている仲なので良しとしようと思いました。ご理解のほど、よろしくお願い致します。


いつも拍手をありがとうございます。応援を励みに頑張ります。
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