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視線 ~69~

Category*『視線』
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夢の中でも、類に優しく抱き寄せられた。
温かくて、安心できて、すごく幸せ…。

顔に触れた何かが心地よくて頬ずりする。
ゆっくりと意識が浮上してくる。
薄ら目を開ければ、規則正しく上下する彼の胸が目の前にあった。



…あ。



あたし達は一枚のケットにくるまっていた。
互いの腰にゆるく腕を巻き、ぴったりとくっついている。
触れているのは素肌。


類、何も着てない…。
…あっ。何も着ていないのは、あたしも…っ!


寝惚けていた頭が一気に覚醒する。
そうだった。
あたし達、昨日……。
情熱的な一夜がフラッシュバックし、顔が火照って仕方なくなる。


愛情を確かめ合う、とても満ち足りた時間だった。
あたし達は、ついにキスのその先を知ってしまった。
これまでの世界がひっくり返ってしまうかのような体験だった。


再会の喜びが高じたせいか、あたし達は欲求に忠実で、とても大胆だったと思う。
強く求め合って、身も心もひとつにして…。
そのことが今更ながらに恥ずかしくなってくる。
鮮烈な記憶に一頻り悶絶してから、彼の顔をそっと見上げた。



類の寝顔を見るのは初めてじゃない。
彼はいつでもどこでもよく寝ていたし。

類はこの上なく幸せそうな笑みを浮かべて眠っている。
あなたにそうさせているのは、あたしなんだって思ってもいい?



だけど、昨夜の彼は、今とは全然違う顔をあたしに見せた。
それまで中性的だと思っていた相手の表情に、男性的な魅力を強く感じた。
彼は男で、あたしは女で。
当然の事実として存在する性差を、初めて実感した気がしたの。




壁時計を見れば、時刻は午前7時を過ぎていた。
遮光カーテンの向こう側には、白い光が満ちている。今日も暑くなりそうだ。


…えっと。
このままだと、マズいよね?
誰かが起こしに来て、今のあたし達の姿を見たら…っ。


あたしは、傍目にも明らかなこの状況に焦り始める。
だけど、類の囲いの中から抜け出すため上半身を起こそうとすると、それを阻むように腕に力が入ったのが分かった。

「…行かないで…」

寝言みたいな彼の声。
甘えるような、気怠そうな。

「類、起きたの?」
「…牧野が……離れようとするから…」


言うが早いか、彼はあたしをケットの中に引き戻した。
そのまま薄い胸に顔を埋めてくる。チュッというリップ音が二つ。
途端に心拍数が跳ね上がる。

「類…っ」
「…まだ……このままで…」

胸の間に唇の感触を残したまま、彼は動かなくなった。
すぅっという寝息が聞こえ始める。

あ、寝てる…。

一瞬、別のことを考えてしまった自分が恥ずかしい。
彼の頭を優しく引き寄せ、その後ろ髪を梳きながら、あたしは愛おしさを募らせた。


好きだよ。大好きだよ。
言葉に尽くせないくらい、類を愛してるよ。




午後には豊橋の自宅に帰る。
明日からは課外授業が始まる。
これから大学受験まで勉強漬けの日々だ。

類と再会できたからと言って、あたしの生活がすぐに変わるわけではない。
だけど、明確な目標ができた。




あたしは、オーナーからの提案を思い出す。

『もし東京に戻ってきてくださるなら、これまで以上にあなたを支援しよう。国立の三橋大学を受験されてはどうかな? かつては希和子と佐和子もそこで学んだ。英徳大学に勝るとも劣らない素晴らしい大学だ。下宿先としてうちの母屋の一室を提供しよう。ちなみに朝昼晩の食事付きだ』

『4年もあれば、あなたは周囲が見違えるような成長を遂げるだろう。決して過大な予想ではない。どうか、この老爺の先見性を信じてはくれまいか』



希和子さんは、このオーナーの提案に言葉を添えた。

『類の成長のためには牧野さんの力が必要です。あなたとの出会いと交際、そして別離を経て、類は自分の殻を破り大きく成長しました。圭悟さんへは私から話します。ご実家の事情のことは任せてください。決して悪いようには致しません』



続けて、類から手紙が送られてきた。
それでも、あたしは迷っていた。ひたすらに迷い続けていた。

本当にその道を選んでいいのか。
それが真に類のためになるのか。

だけど、諒子ちゃんと深幸ちゃんに背中を押してもらって、決意を固めて。
類と再会したら、すべてのマイナスは一瞬でゼロになった。




今度こそ、強く誓うよ。
あたしは、類の手を離さない。
もう二度と。


一緒に大人になろう。
過ぎ行く時間を重ねていこう。

今はできないたくさんのことも、数年が経てば変わっているかもしれない。
皆が信じてくれたように、あたしもあたしの可能性を信じてみる。

どう生まれたかじゃない。
どう生きていくのか。

その言葉を胸に、あたしはこれからを生きよう。




クゥッとお腹が鳴った。
腹時計は正確な時を刻んで、あたしに食事の必要性を強く訴えてきた。
類が二度寝を始めてもう1時間になる。

「お腹すいたなぁ…」

思わず呟くと、腕の中からくっくっと笑い声がした。
彼の肩が揺れている。

「類? 起きたの?」
「起きたよ。お腹の音が大きくて」

その言葉にカァッと顔が熱くなる。


「…だって、目が覚めてから時間が経ったし…」
「昨日は夜遅くまで二人で頑張ったしね?」
「ちょっ…そういう言い方は…」
「なんで恥ずかしがるの? あんなに素直で大胆だったのに」
「………」
「すごく可愛かった。いつもあれくらい積極的で構わないよ?」
「……っ!」

類は意地悪だ。
あたしが照れるのを分かっていて、敢えてそういう言葉を選んでくる。
だって昨日は必死だったもん。いつもは無理だよ…。



「…部屋でシャワー浴びておいで。朝食にしよう」

それでも意地悪は長続きせず、あっさりと腕の中から解放される。
あたしはベッド下の浴衣を手繰り寄せて、素早く羽織った。

忘れ物、と言われて振り返ると、おはようのキスとハグをされた。
泣き出したいくらいに幸せだと思った。






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