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視線 ~70~

Category*『視線』~完~
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朝食後、俺は牧野にある物を手渡した。
それは彼女が使っていたパステルカラーのスマートフォン。
別れの手紙とともに送られてきたもの。
中のデータもちゃんと保存されたままだ。

これ…と呟いて受け取り、薄らと涙ぐんだ彼女に俺は言った。
もう返却不可だよ、と。
牧野は頷き、やがて笑顔になり、大事そうにそれを胸に抱えた。



花沢邸を辞去した牧野は、少しの時間でいいから親友に会いに行きたいと言った。
俺は馬場に松岡邸に向かうように指示を出す。
手元に戻ったスマートフォンから連絡をすると、相手は自宅にいたようで、俺達の復縁をたいそう喜んでいる様子だったという。

「優紀っ!!」

到着するや否や、車から飛び出していった牧野は、自宅の前で待っていた松岡さんにそのまま抱きついた。彼女は牧野を受けとめ、二人は再会を喜び合った。

「つくし、良かったね…っ」
「うん…っ。心配かけてごめん…っ」

声を詰まらせる二人はいつまでも離れがたい様子で、どれほど互いのことを想い合っていたのかが手に取るように分かった。


やがて松岡さんが、離れて見守る俺の存在に意識を向け、牧野に何かを囁いた。
牧野は何度か頷き、ゆっくりと体を離して涙を拭った。
同じように目元を拭った松岡さんは、柔和な笑みを浮かべて俺を見た。

「花沢さん。つくしのこと、よろしくお願いします」
「それはもちろん。…俺からも礼を言うよ。いつも牧野を支えてくれてありがとう」

謝辞を述べると、松岡さんは顔を赤くして否定した。

「いえっ。お礼を言われるようなことは何もできなくて…っ」
「そんなことない。優紀はいつもあたしと類のことを応援してくれた。うまくいくようにって願ってくれてた。…だから、最初に優紀に報告したかったんだよ。本当にありがとう」


無意識かもしれないけど、牧野は相手にとって一番嬉しい言葉をチョイスする。
案の定、松岡さんの目からは止まったはずの涙が溢れ出し、それを見た牧野もつられ泣きし、彼女達はもう一度抱き合って泣いていた。
彼女達を心行くまで泣くに任せることにし、俺は一人、真っ青な天空を仰いだ。



今日は、空が格別に青くて深い。
いや、そうじゃないな。
牧野がいるからそう見えるんだろう。




松岡さんとの再会後、牧野の到着を今か今かと待っている二人の元へと向かった。
場所は、言わずもがなの『天満月』。

母屋の方から訪問すると、満面の笑みを浮かべた祖父が奥から姿を見せた。
彼は今日も作務衣だ。

「よう来なさった。類との未来を選んでくれたこと、感謝します」
「オーナー…」
「臆することはない。強い意志を持って前に進みなさい。皆であなたを支えよう」
「はい!」


少し遅れて伯母がやってきた。
珍しいことに彼女の方は洋装だった。そうしていると母と本当によく似ている。
牧野は声で彼女達を見分けたそうだから大したものだと思う。

「牧野さん!」
「…女将さんっ」

伯母は、昨年12月以降、牧野と再会していない。
そのこともあってか感極まった様子で駆け寄り、牧野の両手を柔らかく包んだ。


「大変だったわね。…過去のことはあれこれ言いませんよ。あなたとこうして再会できたことを嬉しく思います」
「…すみませんでした。あたし…」
「あら、一人称が『あたし』に戻っているのかしら? また一からやり直しね!」

早速の辛い指摘に、牧野が笑う。

「春にはこちらでご厄介になれるように、これから一生懸命、受験勉強を頑張ります。その折にはご指導宜しくお願い致します!」
「桜咲く日が巡って来るのを、父と一緒に楽しみに待っていますよ」



まだ開店前であるはずの天満月には、従業員が数名待機していた。
俺達4人は、最初に対面した和室で昼食を一緒に食べた。

牧野が恐縮しないよう、食材はごく一般的なものが使われている。
野菜中心の和膳に、牧野は感動をストレートに表現した。
料理法や盛り付けに感心しながら、一皿一皿を綺麗に片付けていく。

食欲は牧野の元気のバロメーターだ。
その様子を微笑ましく見守りながら、徐々に近づいてくる別離の時を意識した。




東京駅に向かう車中、牧野の口数はだんだん少なくなっていった。
そっと彼女の肩を抱くと、俺の肩口に頭を寄せてくる。
寂しい気持ちは同じなのだと分かっている。

「…会いに行くよ」

俺は静かに語りかける。

「今度は俺が会いに行く。電話もするよ。…だから、頑張ろう?」
「うん…」

互いの温もりを知ってしまった今。
その揺り返しは大きく、一時でも離れることがつらくて仕方ない。

だけど、俺達には、それぞれに為すべきことがある。
それを抜きに、二人の未来が巡ってくることはないから。



「…あたし、頑張る」

力強さを帯びた牧野の声。

「残りの高校生活を悔いなく過ごすよ。春には絶対ここに戻ってくるから」
「待ってる。俺も頑張るから」
「うん!」

資格取得のための次の試験が近づいてきている。
うかうかしていられないのは俺も同じだった。



それから駅のホームで彼女を見送るまで、俺達はずっと手を繋いでいた。
新幹線のドアが閉まり、彼女との隔たりが完全なものになってしまうと、どうしようもないほどの寂しさで胸が詰まった。

ドアの向こうの彼女の口元が動いた。
またね、と。
俺は頷く。


大丈夫。
今の俺達には明日に続く未来がある。
ずっと一緒にいられるいつかのために、これからの一日一日を大事にしよう。






いつも拍手をありがとうございます。
12/4に拍手の総計が70,000を超えました! とても嬉しいです(*^-^*)
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2 Comments

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2019/12/06 (Fri) 09:55 | REPLY |   
nainai

nainai  

ゆ様

こんばんは。いつもコメントありがとうございます~(*^_^*)

気持ちを確かめ合った二人。しばしの間、遠距離恋愛へと移行します。
まだまだ片付けなければいけない問題もあります。
一つ一つクリアしていく二人を見守っていてくださいね。
でも、もう絆は揺るぎませんのでその点はご安心を。

只今、最終話を書いています。どうにも感慨深いですね…。
年内完結に光が見えてきたところです。頑張ります。

2019/12/06 (Fri) 23:23 | REPLY |   

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