FC2ブログ

視線 ~71~

Category*『視線』~完~
 0
翌日の朝、学校に行くと、諒子ちゃんと深幸ちゃんに教室から連れ出された。
課外授業がもうすぐ始まるというのに、別棟の放送部の部室まで引っ張っていかれ、事の次第を説明させられる。諒子ちゃんが意気込んで訊ねてきた。

「それじゃ、上手くいったのね?」
「うん。彼とやり直すことにした」
「本当に!?」
「二人が応援してくれたからだよ。ありがとう!」

彼女達はあたしの背をポンポンと叩き、自分のことのように喜んでくれた。
今度は深幸ちゃんが質問してくる。

「じゃ、第一志望は三橋大だね?」
「うん。学費のことを考えるとやっぱりね。第二、第三志望も東京で探すつもり」
「つくしちゃんのご両親は、そのことを知ってるの?」
「説得はこれから。でも、反対されても行くつもり」
「そっかぁ」


昨日、東京駅のホームで、繋いだ手を離す瞬間が本当につらかった。
類の姿が見えなくなった途端、デッキで少し泣いてしまった。

だけど、頑張れるよ。
あたし達の心はいつでも繋がっているから。



「なんか金曜日とは雰囲気違うよねぇ。一本、芯が通ったって感じ?」

諒子ちゃんがニヤッと口角を上げる。
あ、嫌な予感。

「もしや、大人の階段上っちゃった?」

…分かってたんだよ。
いつもストレートな諒子ちゃんからそういう質問がくるのは。
でも、さすがにそれは誤魔化そうと思ってた。



だけど、類との一夜が瞬間的にフラッシュバックして。
大好きな人と結ばれた記憶はあまりにも幸せ過ぎて。
顔だけじゃなく、体じゅうが熱くなってくる。

だめだ。
誤魔化すなんて無理…。
恥ずかしさから、思わず両手で顔を覆う。



「うわぁ…。なんか、いろいろ思い出してるよ…」
「すごいねぇ。顔だけじゃなく、首まで真っ赤」

感心しきりの二人の声。
それがますますあたしをヒートアップさせる。

ふいに予鈴が鳴った。
その音はあたし達を現実へと引き戻す。

「ごめんごめん! 朝っぱらから聞くような話題じゃなかったね」
「さ、つくしちゃん。教室に戻らないと」
「続きは帰りにねー!」

二人に急かされながら、慌てて教室に駆け戻る。
火照った顔はなかなか元通りにならない。
周囲のクラスメイト達からも、熱でもあるの?って尋ねられたほどだった。




課外授業は午前中だけ。
三人で、帰り道にあるファストフード店に立ち寄る。
ワンコインのセットを注文すると、あたし達は端っこの席を陣取った。
内緒話をするみたいに顔を寄せ合って話をする。

類との……は、幾重にもオブラートに包んで報告させてもらった。
後学のため、と彼女達が真剣な表情で聞いているので、どうにも恥ずかしい。
痛かった?と訊かれて即座に頷くと、二人の方が頬を赤くした。




あたしの話が終わると、深幸ちゃんが意外なことを言い出した。

「実は、私も二人に報告したいことがあって」
「深幸も? どうしたのよ?」
「私ね、東京のアナウンススクールに行きたいと思ってるの」
「「えっ?」」

あたしと諒子ちゃんの声が重なる。
それは初耳だった。
名古屋市内の国立大が第一志望だと聞いていたから。


「将来的に自分の声を活かした仕事に就きたくて。名古屋にもスクールはあるけど、東京の方が選択肢多いし、その後の進路のこともあるから」
「大学に通いながらスクールに通うってこと?」
「そう。見込みがないときは一般企業に就職しようと思ってるの」

深幸ちゃんは、今年こそ放送コンテスト全国大会の入賞を逃したけれど、大会上位者の常連だった。声は澄んでよく通り、原稿の読み誤りがとても少ない。
彼女がそうした進路を選ぶことは、決して予想外のことではなかった。


「それでね、三橋大学の政治経済学部を受けようと思ってて」
「「三橋!?」」
「つくしちゃんが資料の取り寄せをしたって聞いたとき、すごい偶然だと思った」

あたしは、同じ大学の国際教養学部を受験するつもりだ。
理由は、希和子さんが話してくれた花沢物産のCSR活動に強い興味を持ったから。


「ずっと迷っててね。進路のこと。自分のやりたいことを追い求めてもいいのか。お金もかかることだから」
「うん…」

応える諒子ちゃんの声は少し沈んでいる。
それが寂しさからくるものだとすぐに分かる。
二人は中学校の頃からの付き合いだ。

「勝手に願掛けしちゃった! つくしちゃんが東京に戻る決意をしたら、私もトライしてみよう。そうじゃなかったら名古屋で頑張ろうかなって」
「そんな…」

自分の行動如何いかんで、人生に関わるような重大な決め事をされてしまうなんて…。
思わず声を上げると、深幸ちゃんは眼鏡の奥の瞳を和ませる。

「つくしちゃんは、私にとっての新しい風だったんだよ。巡り合わせってことかな。…あ、でも、気にしないでね! 私が勝手に決めたことだから」



「ご両親は賛成なの?」
「母はともかく、父がね。…でも、説得する。つくしちゃんもこれからでしょ?」
「うん」

深幸ちゃんはしっかり者だ。
十二分に悩んだ末の決断なのだろうと思う。

「…寂しいなぁ。二人とも東京なんて…」

諒子ちゃんがポツリと呟く。
だけど、その声はすぐに明るくなった。

「でも、応援するよ! 二人が望んだ未来に進んでいけるように!」


彼女が空中に突き出したのは握り拳。
あたしも、深幸ちゃんも、同じように右手を握って軽く突き合わせた。
“頑張れ”のグータッチをして、あたし達は笑い合う。


深幸ちゃんの優しさにどれほど助けられてきただろう。
諒子ちゃんの明るさにどれほど励まされてきただろう。


だから、あたしも、二人にエールを送る。
それぞれが望んだ未来にまっすぐ進んでいけるように。






いつも拍手をありがとうございます。
つくしと深幸はともに三橋大を目指します。モデルは言わずもがな、都内の某国立大です。レベルも同程度を見込んでいますので、二人は難関にトライします。
関連記事
スポンサーサイト



0 Comments

Post a comment