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視線 ~72~

Category*『視線』~完~
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『明後日、会いに行く。』

類からその連絡が来たのは金曜日の夕方のことだった。
まだ日曜日の別れから一週間も経っていない。

メッセージのやり取りは毎日している。
それでも、あたしは寂しかったから。
自分でも驚いてしまうくらい、類を恋しく思っていたから。
彼の申し出が、嬉しくて嬉しくて仕方なかった。


『いいの? 勉強に支障ない?』
『いい。会いたいから。』

類のメッセージはいつもシンプルだ。
だけど、その分、気持ちが真っ直ぐに届く。

『嬉しい。私も会いたい。』

だから、あたしも素直に気持ちを返すんだ。
変に照れたり、遠慮したり、意地を張ったりしないで。

『それに…』

追加して送られてきた彼の訪問目的にあたしは納得した。
いよいよなんだ、と思った。




日曜日の午後2時。
類を乗せた新幹線は、定刻通りにホームに到着した。
改札前で待っていたあたしは、人波の中に類の姿を見つけて手を振った。

「出迎えありがとう」

そう言って、類は微笑んだ。
自分だけに向けられる柔らかな笑顔に、きゅんと胸が疼く。

コバルトブルーのカットソーとベージュの綿パン、そして白いスニーカー。
飾り気はないけれど、夏らしくて、とても爽やかな着こなし。
格好良さは半端なくて、いつものことながら彼は周囲の視線を一身に集めていた。

「行こうか」
「うん!」

どちらからともなく手を繋ぎ、指と指を絡ませた。
あたし達は駅舎の南出口へと向かう。



…はぁ。
なんか、ちょっと息苦しい。

手を繋いでいるだけなのに、鼓動は加速するばかりで。
あたしはこんなにドキドキしてるのに、類は全然平気みたいだ。



ふいに、類の親指が、あたしの手の平を撫でた。
とても意図的に。
くるくると、弧を描くようにして。
その動きに応じるように、体がジワッと熱を帯びたような感じがした。

なんだろ、この感じ…。

ぞわぞわ?
ムズムズ?

あたしは自分の中に起きた感覚の変化に戸惑い、隣を歩く彼をそっと見上げた。
彼は悪戯っぽく笑う。


「顔、真っ赤だよ」
「…えっ。…えーと、なんか、照れちゃって…」

類がすっと身を屈めて、あたしの耳元に囁いた。
雑踏の中でも、彼の声だけが甘く響く。

「…思い出したの?」

何を、と問い返すまでもない。
あの日から事あるごとに記憶はフラッシュバックしていたから。
あたしは、こくりと頷く。


「…自分でも、どうしようもないほど思い出しちゃって。…それに、類に会えてすごく嬉しいのに、なんだか、それだけじゃないっていうか…」

今のこのまぜこぜの気持ちを正確に表すなら、どう言えばいいんだろう。
すごく難しい。

「上手く言えないけど、体のどこかがぞわぞわする感じで…。あたし…変かな?」
「…たぶん、その感覚、俺も同じだと思うよ?」

そうなの?と彼を見返せば小さく頷きが返り、あたしはホッとした。
だけど、その感覚が何なのか、彼は答えまで教えてくれなかった。
類も同じならそれでいいか、と深く追求しないことにする。




駅からは路線バスを利用して、自宅の最寄りのバス停で降車する。
バス停からは徒歩5分でうちに着く。

これから、あたしは家族に類を紹介する。
類がそうしてほしいと言ったから。


彼からその申し出があってからすぐ、あたしは家族に都合を確認した。
日曜日の午後に大事な予定はなく、日程調整はすぐにできた。

紹介したい人がいる、と言えば、両親は仰天していた。
その場で根掘り葉掘り聞かれたけれど、詳細は会ってから、と言葉を濁した。
進にだけは、大まかな情報を伝えている。
三人は今、緊張の面持ちで類の到着を待っていることだろう。




「初めまして」

狭いアパートの部屋には不釣り合いなほどの神々しさを放って、類が挨拶をする。
両親も進も、突如として現れた、恐ろしく眉目秀麗な青年に言葉もない様子だ。
類はそれを気に留めることなく、簡単に自己紹介をする。
固まっている三人を促すと、皆、ハッと硬直から解けたように自己紹介を始めた。

…気持ちは分かるよ。
あたしも最初は、類とマトモに目を合わせて話せなかったもん。


名乗り合ったところで、類がさらに詳細を明かす。

英徳大学の1年生であること。
両親が花沢物産の経営者であること。

あたしとは英徳高校で出会ったこと。
昨年の夏から交際を始めたこと。
別れと再会を経て、今後も交際を続けていきたいと思っていること…。



最初は驚くだけだった両親の表情が、徐々に曇っていくのが分かった。
特にママは…。
恥じ入るように顔を赤くし、うつむいていく。






いつも拍手をありがとうございます。
つくしを東京に呼び寄せることの了承を得るため、類は牧野家を訪問します。
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