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視線 ~80~

Category*『視線』~完~
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それからの半年間は飛ぶように過ぎた。


あたしと深幸ちゃんは、志望校のすべてを都内の大学へと切り替えた。
深幸ちゃんは、夏休みの間にお父さんの説得に成功したらしい。

進路指導の先生は、あたし達に三橋大のAO入試を勧めてくれた。
AO入試とは前期試験より早く実施される試験で、三橋大の場合、センター試験の結果と小論文と面接とで合否判定される。ただし、競争率は高い。

1年生の頃から内申点の良い深幸ちゃんとは異なり、あたしは英徳からの中途入学で、内申書の1、2年次の評価はあまり期待できないという。
それでも3年次の成績は上位だったため、合格のチャンスを広げるためにもAO入試はぜひ受けるようにと指導された。


あたしは経済的な理由から学習塾に通っていなかったため、類はその点をフォローするために、牧野家のネット環境を整備してくれた。
そうして都内の塾の通信講座を自宅で受講できるように手配し、専任の学習アドバイザーをあたしにつけてくれた。アドバイザーはベテランの女性講師で、今後どのようなプロセスで大学受験に臨んだらいいかを事細かに指導し、学習計画を立ててくれた。

また、類は進の高校受験のことも気にかけてくれ、高校受験用の通信講座も手配してくれた。あたしと進は時間を決めてパソコンを譲り合って使用し、効率よく勉強しながら受験に向けてひたすらに努力を重ねた。


しばらく会わないで頑張ろうと決めた通り、あたし達はそれぞれの場所で、自分の為すべきことをした。もちろん寂しくなかったわけじゃない。
だけど、あたしも、類も、日々のスケジュールをこなすことで精一杯で、本当に余裕がなかった。隙間時間に交わすメッセージや電話のやり取りが心の支えだった。





1月中旬、センター試験実施。
試験が行われたのは、中部地方でも雪が降りそうなほど冷え込んだ週末だった。
あたしと深幸ちゃんと諒子ちゃんは、お互いの健闘を祈りながら試験に臨んだ。
結果は上々。
あたしも深幸ちゃんもAO入試の一次審査を通過できた。


2月上旬、三橋大のAO入試の二次審査実施。
あたしが受ける国際教養学部の倍率は5倍、深幸ちゃんが受ける政治経済学部は7倍という高倍率だった。
前日に東京入りしたあたし達は、オーナーのご厚意により宗像邸でお世話になった。
小論文も、面接も、やり切った感はあったけれど強い手応えは感じられなかった。
残念ながら、二人とも不合格の結果に終わる。
下旬に実施される前期試験に全力を注ぐこととなった。


2月中旬、第二、第三志望の私立大学の入試実施。
前回と同様、東京滞在中は宗像邸でお世話になる。
筆記試験はどちらの大学も難しかった。会場の雰囲気に呑まれた感もある。
けれど一つ一つの出来に拘らないようにし、必死に目の前の問題に取り組んだ。
結果、二つとも合格。
第二志望にだけ、その後の事務手続きを行い、春からの進学先を確保した。


2月下旬、三橋大の前期試験実施。
試験は2日間に亘って行われた。
緊張の余り、初っ端の英語でケアレスミスをやらかしたことに気付く。
それでもすぐ気持ちを立て直し、残りの科目では全問解き切ることができた。




類は、あたしの集中力を乱さないよう、いつも受験が終わってから会いに来てくれた。そして、全力を尽くしたあたしを優しく労わってくれた。

その中で、深幸ちゃんに類を紹介する機会にも恵まれた。彼女は眼鏡の奥の瞳をこれ以上ないくらいに見開き、顔を赤らめて彼に挨拶していた。
類と初めて会った人は、皆、同じ反応をするんだな、と微笑ましく思った。

分かるよ。あたしもそうだったんだもの。
…というか、いまだにそうかも。
類に全開の笑顔を向けられたら、神々しさも相まってやっぱり照れてしまうんだ。




3月上旬、国立大学の合格発表より早く、あたしは高校を卒業した。
卒業式の朝は濃霧が出ていたけれど、日が昇るにつれて麗らかな春の日となった。
受験期を共に過ごしたクラスメイト達、そして、楽しい時間を共有した部活の仲間達と再会を約束し、あたしは学び舎を去った。

都さんが勧めてくれた通り、この高校を転入先に選んで正解だったと思う。
あたしは、たくさんの思い出とかけがえのない友人をここで得ることができた。
緻密な学習カリキュラムはあたしに安定した学力を授けてくれ、大学進学への道筋を確かなものにしてくれた。
ここまでの巡り合わせの数々に、あたしは心から感謝している。




そして、やってきた合格発表の日―。




この日、あたしは、ママと一緒に自宅にいた。
合否はスマートフォンで確認できる。
発表の時刻を迎え、震える指で受験番号を入力し、画面をタップ。
表示された結果は―。



―合格―



傍で固唾を呑んで見守っていたママは、あたしの合格が判るや否や、涙をこぼした。
そして、よくやったね、良かったねとあたしを強く抱きしめ、心から喜んでくれた。


類に連絡すると、あたしと同じようにサイトにアクセスした彼も結果を知っていた。
珍しく類の声も弾んでいる。

「合格おめでとう。つくしならやり遂げると思ってた」
「ありがとう!」
「遠距離ももう卒業だね」
「うん!」

あたしが東京の宗像邸に居を移す前に、類はもう一度豊橋を訪れたいという。
進の高校受験の合否が判明するのが明後日。
その結果次第で、週末に類が牧野家に訪問するかどうかが決まる。



同日同時刻、三橋大の政治経済学部の合格発表も行われた。
深幸ちゃんも無事合格したと連絡がある。

直後、深幸ちゃんは、自宅まであたしに会いに来てくれた。
アパートの前で歓喜の声を上げて抱き合い、長かった勉強漬けの日々を労い合い、春からのキャンパスライフに想いを馳せた。
学部は違っても、同じキャンパス内に深幸ちゃんがいるというだけでとても心強い。


あたしは、合格の報を方々ほうぼうに知らせた。
パパ、オーナーと女将さん、都さん、優紀、諒子ちゃんには直接電話で。
そして、F3にはメールで…。


速攻でメッセージを送ってくれたのは、誰あろう、海の向こうの道明寺だった。
『合格できてよかったな』と、短くただ一言。
だけど忙しい彼の身の上を知っていたあたしは、その返信が嬉しかった。
立て続けに、二通目のメッセージが来る。

『また会おう』

あの冬の夜、再会を約束してあたし達は握手を交わした。
遠くない未来に、きっと実現できるだろう。



丁寧なお祝いメッセージを書いてくれたのは美作さんだった。
東京に戻ったら、あたしのために祝賀会を催してくれるという。
面倒見のいい兄貴分は健在らしい。
引越しの日程が決まったら知らせることを約束し、美作さんとのやり取りを終えた。



西門さんは既読スルー。
その対応が彼らしくて、あたしは笑った。
冷たいわけじゃない。それが彼のスタンスなんだと分かっている。
彼が改めてお祝いメッセージをくれたのは翌々日のこと。
その中に、『もう少し女を磨けよ』と書いてあったのには苦笑した。



翌日、名古屋の国立大を受験した諒子ちゃんからも合格したと連絡があった。
翌々日には、進も、あたしの母校に合格したことが分かった。


長い長い冬を越え、喜びに満ちた春を迎えた。
それは、あたし達がそれぞれに新しいスタートを切る季節でもあった。






いつも拍手をありがとうございます。
カウントダウンを始めます! 残りは、本編9話+番外編1話の全10話です。
なんとか年内に完結できそうです。最後までお楽しみくださいませ(*^-^*)
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2 Comments

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2019/12/18 (Wed) 20:34 | REPLY |   
nainai

nainai  

二様

こんばんは。コメントありがとうございます(*^-^*)
ホッとしてもらえて何よりですー! 
苦しい時期が長かった分、合格の喜びもひとしおですよね。

第80話はつくしの受験奮闘記であり、ややドキュメンタリー的な展開でした。ただ一言、「受験勉強に励み、大学に合格した」と書けば一瞬で飛び越えてしまえる部分ですが、どのように努力をしたのか、という部分にあえて焦点を当てたかったんです。読み応えがある、と仰っていただけて嬉しいです。

最終話まであと少し。もう苦しい展開はありません。心穏やかにカウントダウンしていただければと思います。

2019/12/18 (Wed) 23:42 | REPLY |   

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