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視線 ~88~

Category*『視線』~完~
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企業の平均寿命は30年、と言われる時代があった。
しかし、テクノロジーの進歩による昨今のイノベーション(技術革新)は、既存の産業を排し、多くの企業を淘汰・再編し、生き残り競争を激化させた。
今後、企業の寿命はますます短くなる、と経済学者は予見する。


花沢物産の創始者は亡くなられた前社長、つまり類の祖父にあたる方だ。
会社は息子である圭悟さんへと受け継がれ、次代で事業は大きく拡充されて、国内では屈指の大企業へと成長していった。
創立50年という数字は実に驚異的なもので、現経営陣の戦略への評価は高い。

式典への列席者は1200人にも及ぶという。これまでも欧州で様々なパーティーに出席してきたけれど、このような規模の式典はそうそうない。
類のパートナーは私が務めることになっている。彼は妊娠中の私の体調を案じ、会場に顔を出すのはごく短時間で構わないと言ってくれている。



会場には、大人数を収容できるパーティールームを持つメープルホテルが選ばれた。
NY在住の道明寺も激務の合間を縫い、短時間ではあるけれど、帰国して式典に出席してくれるそうだ。彼が控室としてスイートルームの特別室を提供してくれたので、私達は開式前のごくわずかな時間、その部屋に集まることにした。
式典が始まってしまえば、おそらくゆっくり話などできないから。


類とともにメープルホテルに入ったのが開式1時間前。
スタッフに誘導されて特別室に通されると、先に来ていたのはいつもの二人だった。

「よぉ、久しぶり」と手を軽く挙げたのは西門さん。
「先日はどうも」とスマートに笑ったのは美作さん。

学生時代よりも精悍さを増した二人。
そこにいるだけで華やぎが加わるような、圧倒的な存在感。
やはり彼らは別格なのだと感じる瞬間だ。



紺青色のマタニティドレスは類がチョイスしてくれた。
ふんわりとしたシフォン生地とAラインのデザインは、大きくなったお腹を強調せず、落ち着いた女性の雰囲気を演出してくれる。
本当は、オーナー改めお祖父様が仕立ててくれた留め袖を着たかったけれど、体への負担を考慮して今日は洋装を選んだ。

ソファに背を預けると、腰への負担が軽減されて楽になる。
ふぅ、と小さく息を吐いたところで西門さんが訊いた。

「何週目だ?」
「今日で33週目に入ったの。経過は順調だよ」
「まだまだデカくなるんだな。腹」
「そうなの。自分でもビックリだよ」

西門さんはまだ結婚していない。さすがに『3日ルール』のお付き合いは卒業したようだけど、ドンファンぶりは健在だと風の便りに聞く。それでも茶人としての腕前は確かなものだと、お祖父様は彼の実力を高く評価している。
蠱惑的な魅力を惜しみなく振り撒き、要領もメディア受けもいい彼のことだ。
多くの門下生を引き寄せ、西門流の隆盛を極めていくことだろう。


「久しぶりの日本はどうだ?」
「やっぱり落ち着く。つくしもリラックスできてるし、帰ってきてよかった」

美作さんは現在、婚約中。春には挙式だ。
彼が生涯の伴侶に選んだのは、意外にも年下の女性だった。
帰国の折、一度だけお会いしたことがあるけれど、私と同い年とは思えないほどしっかりしていて、仕事もよく出来るそう。…案外、美作さんは尻に敷かれちゃうかも?



互いの近況を話し合っていると、不意にドアが開いた。
大きなストライドで入ってきたのは道明寺。傍らには大河原滋さんを伴っている。
挨拶を交わし合う声で、室内はにわかに騒がしさに包まれた。

「つくしーっ!! 会いたかったぁ!」

滋さんは私の姿を見るなり、一直線に駆け寄ってきた。
危険を察知した類が即座に立ち上がり、私の前に立って滋さんの進路を阻む。

「ちょっと類君! 再会を邪魔しないで」
「抱きつくのは禁止」
「えぇーっ! なんでっ」
「前につくしを締め落としかけたのを忘れた? 自重して」


滋さんとは、アメリカでの仕事を通じて仲良くなった。3年前、NYに渡航した際、道明寺の紹介で初めてお会いした。小動物を思わせるような愛らしいルックスとは裏腹に、彼女の元気と腕力は凄まじく、ハグされた折に何度か失神しかけた経験から、類はいつも滋さんを警戒している。

滋さんは、当時18歳のお見合いの席で、道明寺に一目惚れをした。
その後、道明寺側から正式に破談の申し入れがあったものの、真摯に謝罪する道明寺の姿に彼女は改めて惚れ直したんだとか。それから彼女の猛アタックが始まった。

だけど、数年間を経ても二人の間に進展はなく、滋さんは恋人関係を諦め、友人としての立ち位置をキープすることにしたそうだ。そして、現在に至る。
破天荒な性格が災いしてか、なかなか良縁には結びつかないと本人は明るく笑う。



類によって興奮を抑えられた滋さんが、ソファの隣に慎ましく座った。
久しぶりだね、と彼女の美しい手を取ると、その顔がふにゃりと緩む。
初対面の時から、この人懐っこい性格は変わらない。

「今日は来てくれてありがとう。お仕事は?」
「問題なし! なんか、つくしが神々しく見える。ママになるんだねぇ~」
「うん。だんだん実感もわいてきたの」
「お腹、触ってみていい?」
「どうぞ」

滋さんはそろそろと私のお腹に触れる。緊張する、と言いながら。
やがて赤ちゃんの大きな胎動に驚き、彼女はパッと手を引っ込めた。

「すごい! こんなに動くものなの?」
「ビックリするでしょう。きっとお腹の中で伸びをしてるんだと思う」
「元気に生まれてきてね! 君に会うのを楽しみにしてるよ」

滋さんはもう一度優しく私のお腹を撫で、キラキラと大きな瞳を輝かせた。



滋さんに席を譲った類は、道明寺の向かいに座っていた。
類の隣には美作さんが、道明寺の隣には西門さんが座る。
4人がこうして勢揃いするのはいつ以来だろう。
そうやって座って談笑している姿は、英徳高校のラウンジを彷彿とさせる。

「なんか壮観だよね~」

年若きリーダー達。
その彼らが醸し出す圧倒的なオーラに、滋さんがしみじみと言う。

「さすがF4って感じ?」
「その呼び名、懐かしい。でも本当にそう。華やかだよね」



私はあの頃に思いを馳せる。
類と私の交際に、彼らは三者三様のスタンスを示した。

最初から好意的だった美作さん。
中立の立場を表明した西門さん。
真っ向から反対した道明寺。

私と類が真剣に思い合っていることを知ると、西門さんも、道明寺も、私達のサポートに回ってくれるようになった。今の私達があるのは、彼らの支えあってのことだと深く感謝している。



「ねーねー、司の初恋ってつくしなんだよね?」
「…えぇっ!?」

滋さんの口から飛び出した言葉に驚き、私は大きな声を発してしまった。
何事かとこちらを振り向いた4人に、滋さんはあっけらかんと同じ質問をする。
彼らは一様に、あぁ、という表情になり、誰も驚いた様子を見せない。
動揺しているのは私だけのようだ。


「…牧野。お前、気付いてなかったとか言う?」

西門さんのその言葉に、思わず眉間に皴を寄せてしまう。
マジか、と呆れ顔の彼。

友人なんだと思っていた。
確か、本人もそう言っていたし。

「男心を察しろって無理だろ。なんせ牧野だ」と、笑う美作さん。
「…俺、あえて触れたことはないよ」と、類。


―そして。


「事実だけど、もう過ぎた話だぜ?」

道明寺本人にあっさりと肯定され、私は言葉もない。

…私が初恋…。
…そっかぁ…。
…そうだったんだ…。

照れも動じもしない彼の大人な対応に、時の流れを感じる。


「お前、徹頭徹尾、類しか見てなかったろ。俺の気持ちなんざ気付きようもねぇよ」
「お、四字熟語」
「さすがにもう言い誤りできねーよな。社会人として」
「うるせぇな、外野が!」

美作さんと西門さんの茶々に道明寺が噛みつく。
チラリと類を見やれば、大丈夫だよ、というように優しく微笑まれた。



視線を移せば、道明寺と目が合った。
双方、同時に笑顔になる。

道明寺は、敷かれたレールの上を嫌々走るのではなく、自身で行先を決められるようになっただろうか。
そうであってくれたらいい、後悔のない日々を送ってほしいと、切に願う。


10年来の友人として―。


「…改まって言うのも変だけど、ありがとう」
「おぅ」
「これからもよろしくね」
「任せとけ」

そんな私達のやり取りを、いいなぁ、と羨む滋さんの呟きが聞こえた。
しれっと地雷踏んでんじゃねーよ、という道明寺の突っ込みが入る。
カラカラと笑い、まったく動じる様子のない滋さん。
この二人の友人関係も、それなりに良好なまま継続していくものと思われる。


ドアがノックされ、お時間です、とホテルスタッフから声を掛けられた。
私達は立ち上がり、階下への移動を始めた。






いつも拍手をありがとうございます。
次回、本編の最終話です!

今作では、原作における類の役割を司に担ってもらいました。親友の奥さんなら、ずっと友人でいられる。その関係性を司は心密かに大切にしています。利他的な姿は常識的で、彼らしさには欠けるかもしれませんが、それだけつくしのことを大事に想っていた…というスタンスで書いたつもりです。
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4 Comments

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2019/12/26 (Thu) 11:59 | REPLY |   

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2019/12/26 (Thu) 23:46 | REPLY |   
nainai

nainai  

ふ様

こんばんは。いつもコメントありがとうございます(*'▽')
ついに本編の最終回を迎えました。今夜はギリギリまで推敲をしていたので、返事が遅くなってしまいました。

つくしの髪型…自分の中のイメージではアップでした。今作のつくしは和装をする機会が多いという設定なので、髪はセミロングあたりかな、と。この一文を最終話に入れ込もうと努力してみたのですが、ちょっと難しかったのでここで回答です。
振り返ってみると、たくさんのキャラクターを登場させてきたなぁと思います。群像劇が好きです。細かい設定にお付き合いくださり、ありがとうございました。

最後に番外編の更新が残っています。お話の更新はそれで最後です。「後書き」と「ご挨拶」の記事もご用意がありますので、そちらも楽しんでいただければ嬉しいです。

2019/12/27 (Fri) 00:14 | REPLY |   
nainai

nainai  

二様

こんばんは。連日のコメントありがとうございます(*'▽')
ついに本編の最終話を迎えてしまいましたー。感慨無量です。

私は生粋の類つくなのですが、ここでは司の気持ちも汲んだエピソードを盛り込んでいます。司の登場シーンが、総二郎やあきらよりも多かったのが今作の特徴です。司の良さも、自分なりに解釈して書いてみたかったのです。
なんかいいなぁ…というのは最高の誉め言葉です。二様の印象に残るエピソードをお送り出来て嬉しく思います。

『視線』は類とつくしの交際開始から10年間の軌跡です。書き足らない所も多々あるのですが、これが私の限界でした(;^_^A 読み返していただけるなんて嬉しいです。
あとは番外編の更新があります。最後までお楽しみください。

2019/12/27 (Fri) 00:45 | REPLY |   

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