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Category第1章 紡いでいくもの
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その会合の帰りも、類があたしを送ってくれることになった。
別れ際、滋さんは11月の挙式に絶対来てほしいとあたしに言い、あたしはもちろんだと請け負った。
美作さんには、夢乃さんと双子ちゃんに会いに来てやってほしいと頼まれた。
そういえば八千代先生とは会っているけれど、美作邸へは随分とお伺いできていない。あたしは、近いうちに必ず、と答えた。

皆と別れ、車の中で類と二人きりになると、あたしは改めて優紀の言葉を思い出していた。
『…花沢さん、つくしのことが好きだよ』
進が、優紀が、…誰しもがそうだと言う。
あたし自身も、そう思うことがなかったわけじゃない。
だけど。
…あたしは怖いんだ。
一歩踏み出すことによって、これまでと違った関係が生まれることが。
その関係には、確実に白黒をつける瞬間が来てしまうから。


あたしの人生から完全に類を失ってしまうことには、もう耐えられそうになかった。
彼は、あたしの心の一部だ。
ずっと繋がっていられるのなら、友人としてでいい。
でも、優紀が最後に告げた言葉があたしを悩ませる。

『いつまでもこの関係が続けられるとは、あたしは思わない。…男女間の友情が存在しないって言ってるんじゃない。それは双方が望めば可能なんだと思う。…でも、花沢さんが結婚することになったら、もう今まで通りにはいかないよ? つくしは、それでもいいの?』


「牧野?」
その声にはっとすると、物思いに沈んでしまっていたあたしの顔を、類が心配そうに覗き込んでいた。
「どうした? 気分でも悪い?」
あたしが全然話さないので不思議に思ったんだろう。あたしは近くなった類との距離が急に恥ずかしく思えて、ドアの方に身を引きながら即座に否定する。
「うぅんっ、違うの! ちょっと課題のことで考え込んじゃって…」
「相変わらず忙しいんだね」
「うん…」
類はあたしの慌てぶりにも何の反応も示さず、あくまでもニュートラルな態度で、すいと体を離すと前を向いた。


あたしは何か話題はないかと考え、ふと思い出したことがあった。
「去年の今頃も飲み会があったじゃない?」
「うん」
「あのときは類の誕生日プレゼントを前々から準備してたけど、今年は忙しくってまだ準備できていないの」
類はふんわりと笑む。
「今年も何かくれるんだ?」
「もちろん! だって類はあたしにお祝いをくれたじゃない」


年末の12月28日、あたしの21歳の誕生日に、彼はあたしにプレゼントをくれた。
カシミアの白いマフラーと、同じ色の手袋。
純白のそれはふわふわで目に眩しくて、汚しちゃうんじゃないかと不安で、あたしはなかなかそれを身に付けられずにいる。
「類は…その、何が欲しい?」
類は軽く目を伏せるようにして考え込んだ後、ぼそりと言った。
「…牧野の時間、一日分、俺にくれない?」
「それって…」
「うん。…誕生日、一緒に過ごして? プレゼント代わりに」

あたしは類を見つめた。
彼も美しいビー玉のような瞳で、あたしをじっと見つめ返した。
これまで互いの誕生日を一緒に過ごすことはなかった。お祝いを贈り合うことはあっても。あたし達は恋人同士ではないのだから。

―類との関係性が変化するのかもしれない。
その予感に、あたしは慄く。
『…でも、花沢さんが結婚することになったら、もう今まで通りにはいかないよ?』
脳裏によぎる優紀の言葉。

―あたしは。
―あたしは、どうしたいの?



「…ごめん。無理にとは言わない」
あたしの逡巡を察したのか、類は視線を逸らして謝った。
―その声音に落胆の響きを感じたのは、勘違いじゃないよね?
咄嗟にあたしは答えていた。
「いいよ、類」
類はパッとあたしに視線を戻す。あたしは大きく笑んだ。
「いままでの感謝をこめて、あたし、精いっぱいお祝いするから」
「…ありがとう」
類は静かに破顔する。
その秀麗さに静かに見惚れて、あたしはまた自分の頬が熱くなるのを感じていた。



3月30日は日曜日だった。
類の22回目の誕生日は、桜の開花を感じさせるほどの陽気さで、あたしは妙に華やいだ気持ちで朝を迎えた。
進は塾の春期講習のため、朝早くから出かけてしまっていた。
その進から出掛でがけに言われた一言が、あたしをひどく動揺させた。

「俺のことは気にしないで楽しんできてよ。夕食も大丈夫だから」
「え? そんなに遅くなるつもりは…」
「きっと類さんは夕食も一緒にって思ってると思うよ」
進はニッと歯を見せて笑った。
あたしがぎこちなく微笑み返すと、進はさらに笑った。
「そんなに構えることないじゃん。いつも通りの姉ちゃんで行きなよ。…ついでに、自分の気持ちに素直になったらいいんだよ」
「あたしの気持ちって…」
「弟にそこまで言わせんなよ。…姉ちゃんだって、とっくに分かってるだろ?」
じゃ、と踵を返すと、進はさっさと玄関を飛び出していってしまった。


―自分の気持ち。
へたりとキッチンの床に座り込んで、進の言葉を反芻する。

―素直に…なってみる?
あたしはようやく覚悟を決めた。




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