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Marbling Orange ~1~

Category『Marbling Orange』
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~Rui~


足掛け7年。
それは、俺が牧野つくしに片思いをしていた期間。


紆余曲折を経て、親友の恋人になった彼女。
その段になって、ようやく自覚できた恋心。
でも、二人の幸せそうな笑顔が見られれば、俺はそれでよかった。

“応援する立場は苦しくなかったのか”
実際に何度か訊ねられた質問だ。
“苦しくなかった”
と答えるなら、それは嘘になる。
それでも、自分の溢れる想いは必死にならしてきた。


東京とニューヨーク。
遠距離恋愛の始まり。
4年後の約束。

司を想ってどんどん綺麗になっていく彼女を、
未来を見据えて必死に自己研鑽を続ける彼女を、
一番近くで見守り、その歩みを支えながら、
漆黒の瞳が自分だけを映してくれる日常の中の一瞬を、ただ待ち焦がれた。

心のどこかでは司への後ろめたさを感じていて、
それでも彼女の傍を離れることはできなくて、
俺の手の届かない存在になってしまう“いつか”を、息を凝らして待っていた。


だけど、“いつか”はやってこなかった。
財閥の存続か。自身の幸福か。
急展開の中で二者択一を迫られ、二人は別れを選んだから。



強く惹かれ合いながらも、互いの手を離すしかなかった司と牧野。
どちらにも非がない別離は、双方の心に大きな風穴をあけた。
あの時彼女が流した涙を、悲しみの深さを、俺は今も克明に覚えている。

それは同時に、なす術なく事態を傍観するしかなかった俺に、己の無力さを痛感させた。あきらも、総二郎も、同じような歯痒さや悔しさを胸に抱いたことだろう。



だから、力が欲しい。
必要な時に過不足なく振るうことのできる、純然たる力が。
もう二度と、目の前で大切な人が苦しまずにすむように。

二人の破局は、敷かれたレールの上を漫然と進んでいた俺の中に、強固な意志を芽生えさせた。俺は、変わらなくてはいけないと思った。



司と別れてから、牧野とは少し疎遠になっていた時期があった。心の整理をするために、彼女が意図的にそうしていたのだろうと思う。それでも、牧野は俺とのホットラインを断ち切らないでいてくれた。
きっかけは俺が作った。徐々にスマートフォンでのやり取りが復活し、近況を知らせ合うようになった。やがては会って食事をするようになった。

彼女が司を忘れられずにいることは分かっていた。
笑顔を見せてはくれても、遠くを見つめる横顔にはいつも憂いの欠片があったから。

時間が必要だった。
彼女が、司への想いを昇華させる時間が。
そうしてつかず離れずの距離を保ちながら、静かな悲しみに寄り添い続けた3年間。



季節は巡り、時間の経過とともに、彼女の傷はゆっくりと癒えていったように見えた。この間に学生から社会人になったこともプラスに働いたのだと思う。
新たな生活や人間関係は彼女の心に薫風を吹きこみ、本来の雑草根性を奮い起こした。牧野は成功や失敗を繰り返しながら仕事に励み、一人の女性としてしなやかに成長していった。

漆黒の瞳が俺だけを映す時間は少しずつ増えていき、あの憂いの色も徐々に薄らいでいった。そうした前向きな変化をもっと感じていたくて、隔週に会う約束を取り付けた。



金曜日のランチタイム。
待ち合わせは行きつけのカフェ。

後継者候補と目され、それに見合う結果を求められて仕事に忙殺される日常には、プライベートなど無きに等しい。でも、不満はなかった。今は義務じゃなく、己の意志と覚悟でもってその状況に飛び込んでいるから。

激務の中にあって、彼女との約束は唯一の癒しだった。
どれほど疲れがたまっていても、牧野が寄せてくれる信頼や心配が、優しい言葉やくるくると変わる表情が、つまりは彼女の為す何もかもが俺の活力源になった。



友達以上で、恋人未満。
ソウルメイト。
俺達の関係を表してきた言葉。

長らく続いてきたこの宙ぶらりんの間柄を変えたい。
心の奥で温めてきた彼女への愛を余すことなく伝え、それを受け入れてもらいたい。
そう思うようになったのは、もはや必然だろう。

でも俺がようやく一歩踏み出す決意をした頃、牧野の方では俺と距離を置くことを考えていた。彼女は、変化を恐れていたのだ。



江の島までのドライブデート。
八幡様にこの片恋の成就を願った日。

七里ヶ浜で、牧野に積年の想いを告げた。
離れていこうとする彼女の心を、なんとしても繋ぎとめておきたかった。
自分では俺を支えられない、俺には相応しくない、と、背を向けて泣く彼女を抱きしめ、愛を伝えた。


愛してる、と。
他の何に替えても、あんたが欲しい、と。


たとえ、あの時、彼女が俺に応えてくれなくても決して諦めるつもりはなかった。何度でも気持ちを伝え、いつまででも彼女のYesを待つつもりでいた。
牧野は無自覚のようだけど、彼女の心の中には確かに俺だけの居場所があって、向けてくれる優しさの中には友情とは言い切れない感情があって、それはつまりこの関係を恋愛へと発展させていける何かだと、俺は強く信じていたから。



怖がらなくていいよ。
そこから一歩、踏み出しておいで。

悲しませたりしないよ。
この手を離すこともしない。

精一杯の愛を注ぐから、
どうか、この俺に、君を愛させてよ。



やがて、牧野は泣くのをやめた。
“バカだなぁ”と頑なな俺を評して一言つぶやき、力なく笑った。
俺の手に、彼女の手が重なる。
その温かさに安堵する。


彼女から“好き”の一言が紡がれる。
柔らかな唇に触れた時、俺の世界は一変した。
足掛け7年の片恋がようやく報われた瞬間だった。


…もしかしたら、根負けだったのかもしれない。
彼女は押しに弱い人だから。

でも、それならそれで構わない。
俺達のペースで、この絆を確かなものにしていこうよ。







いつも拍手をありがとうございます。
連載スタートです! 類の独白で『Scarlet』をプレイバックしてみました。
最後まで応援よろしくお願い致します(*^-^*)
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10 Comments

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2021/01/01 (Fri) 00:50 | REPLY |   

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2021/01/01 (Fri) 07:40 | REPLY |   

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2021/01/01 (Fri) 11:12 | REPLY |   

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2021/01/01 (Fri) 11:26 | REPLY |   
nainai

nainai  

ふ*様

明けましておめでとうございます(*^-^*)
2021年のコメント一番乗り、とても嬉しいです♪

さて、第1話は類の独白からでした。7年をかけて、だんだん芯がしっかりしていく様子が窺えますね。つくしとの関係はやっとスタートライン。どういう展開が待っているのか、楽しみにしていてくださいね。

ふ*様にとっても、実り多き一年でありますように。今年もよろしくお願いいたします。

2021/01/01 (Fri) 22:10 | REPLY |   
nainai

nainai  

み****様

明けましておめでとうございます(*^▽^*)
しばらくのご無沙汰でした。しぶとく舞い戻ってきましたw

ご家族は今年が節目の年なのですね。娘さん、おめでとうございます! 息子さんが無事にこの難局を切り抜けられるように祈っております。み****様にとっても、ご家族にとっても、実り多き一年でありますように。

今作は全30話の中編です。この正月休みでせっせと記事のセッティングをしています。最後まで楽しんでいただければ幸いです。

2021/01/01 (Fri) 22:14 | REPLY |   
nainai

nainai  

a**様

明けましておめでとうございます(#^^#)
“待ってました”の一言が本当に嬉しいです。遅筆ながらも頑張って続けてきてよかったなぁと思います。

『Scarlet』の続編についてもずっと前から構想だけはあったのですが、なかなか話が繋げず…。なんとか30話で纏め上げることができてホッとしています。甘く切ない恋模様を描いていきます。私が提供できるのは僅かばかりのエンターテイメントですが、最後まで楽しんでいただければ幸いです。

a**様にとって、実り多き一年でありますように。

2021/01/01 (Fri) 22:22 | REPLY |   
nainai

nainai  

ビ**様

明けましておめでとうございます(*^^)v
年末に引き続いてのコメント、とても嬉しいです♪

第1話で類は決意表明をしています。まだつくしとの関係が不安定なことは分かっていて、この絆を大切に育てていきたい、と。二人はまだスタートラインに立ったばかり。その先にどんなコースが待ち受けているのか、どのようにして関係を深めていくのか、温かく見守っていてくださいね。

ビ**様にとっても、実り多き一年でありますように。今年もよろしくお願いいたします。

2021/01/01 (Fri) 22:27 | REPLY |   

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2021/01/01 (Fri) 22:58 | REPLY |   
nainai

nainai  

ゆ****様

明けましておめでとうございます(#^^#) なんとか舞い戻ってきました。またしばらくお付き合いください。

第1話で、7年間の類の心の変遷を追いました。今作は原作ベースなので、できるだけ世界観を壊さないように、登場人物たちの心情変化を丁寧に描いていきたいです。最終話まで楽しんでいただければ幸いです。


今回のコロナ禍で感じたことは“心を一つにすることの難しさ”です。国からも医療現場からもたくさんのメッセージが発信されているのに、受け止め方は実に多様なのだと残念に思います。ニュースの深刻さに心を麻痺させるのではなく、“ここが頑張り時だ!”と気を引き締めて年始からの業務にあたりたいです。

ゆ****様にとっても、実り多き一年でありますように。今年もよろしくお願いいたします。

2021/01/02 (Sat) 11:49 | REPLY |   

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