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Marbling Orange ~8~

Category『Marbling Orange』
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~Tsukushi~


西門さんが贔屓にしているその店は、今後あたし達が足を踏み入れることはないだろう場所にあった。紹介制かつ会員制のバー。彼が入店するやいなや、VIPルームに通されるという相変わらずの厚遇ぶり。
凛子さんは興味深そうに目を輝かせながら、あたしの後ろをついてくる。

コートを脱いでふかふかのソファに腰掛けると、なんだか疲れがドッと押し寄せてきた気がした。
今夜はいろいろ聞き出されるんだろうな。…そう思うと、少し気が重かった。


「料理、適当に頼んでおいたけどいいよな?」
「…お任せします」
飲み物は選べるというので、カンパリオレンジを頼んだ。
お酒は強くないけど、少しだけ飲みたい気分だったから。
凛子さんはモスコミュールを頼んでいた。本来は焼酎派なので、さすがに初対面の遠慮があると見える。

オーダーしてからほとんど間を置かず、料理や飲み物がサーブされた。あたし達はグラスで乾杯をし、最初の一口を味わう。アルコールを口にするのは久しぶりだった。まずは食べろ、と促され、あたしと凛子さんは出来立ての料理を取り分けて食べる。
「……っ!! おいしい!」
「そりゃ良かった」
文句なしのチョイスだよ、西門め。
当人は涼しい顔でグラスを傾け、あたし達の様子を眺めて笑っている。


「真島さんは、類を知っているんですか?」
「花沢さんのことですね? 牧野さんとお付き合いされていることは知っています」
「牧野の元カレについては」
「道明寺さん」
「OK。話が早い」
西門さんは最初に、凛子さんがどれくらいあたしと親しいのかを探ったようだ。
彼は、あたしを正面に見据えると、意地の悪い表情を覗かせた。

「お前も、類も、薄情だよなー。付き合うことにしたんなら、報告くれてもいいだろ」
「西門さんは、誰から聞いたの?」
「あきらから。あいつは類から聞いたらしい」
西門さんの言い分も分かるので、あたしは神妙な気持ちになる。
道明寺と別れてから、彼は彼なりにあたしの身を案じてくれていたのだ。

「…その、ごめんね。西門さん。あたしからは、なんとなく言いづらくて」
「まぁな。…でも、遅かれ早かれ、そういう報告が来ることは分かってたけどな」
「そっか」


西門さんの発言は、あの日、桜子が発した“順当”の言葉と重なって、あたしの中でなぜか不穏に響いた。類と付き合うことが、まるで、然るべき未来であったかのように言われるのには抵抗があるようだ。どうしてそんなふうに感じてしまうのかは、上手く言い表せないけど…。


「言えなかったのは、恋人としての時間をあまり過ごせていないからじゃないですか?」
静かにコメントを発したのは凛子さんだった。
その口調の柔らかさにホッとする。
「聞けば、花沢さんはとてもお忙しい方のようで」
西門さんは同意を示す。
「そのようですね。この1年間に上げた類個人の業績は目覚ましいですから。…あいつ、まだ帰国してないんだろ?」
「うん。今はパリ」
「いつ帰ってくるんだ?」
「分からない。予定が変わることが多くて…。そのうち、向こうに拠点を移すことになるのかも」
「ま、そうだろうな」


西門さんが言葉を切り、あたしをじっと見つめるので、つい身構えてしまう。
心の奥まで見透かすような、この真っすぐな視線があたしは苦手。
彼は、時に、グレーゾーンを許さない厳しさを見せることがあるから。


「お前、その時はどうするよ?」
「…え?」
「ついていくんだろ? 今度こそ」


―ついていく。
―今度こそ。


凛子さんの手前ということもあり、即答できず言葉に窮しているとドアがノックされ、あたしは西門さんの視線から逃れるようにそちらを見た。
「西門様、失礼いたします。美作様をご案内いたしました」
「あぁ、入ってもらって」
ドアの向こうから姿を見せたのは美作さんで、西門さん同様、会うのは久しぶりだった。ウェーブがかった髪は短く整えられ、柔らかな風合いのブラウンのスリーピースがよく似合っていて格好いい。
「呼ばれたから来てやったぞー」
「よぉ。思ったより早かったな」
「ちょうど近くにいたんだ。明日からはシンガポールだけどな」

ジャケットを脱いだ美作さんは西門さんの隣に座り、あたしと凛子さんに向けてスマートに微笑んだ。
「牧野、久しぶり。隣の美人は?」
「職場の先輩で、真島凛子さん」
「初めまして。真島です。今日は同席させていただけて嬉しいです」
「美作です。よろしく」


目の前で交わされる会話の中、あたしには新たな発見があった。
凛子さんは、類を含めてF4に会ったことはない。でも、F4のことは巷の噂で知っていたみたい。彼女には、彼らに初めて対面した女性達が見せるテンションの高揚が全くなくて、至ってニュートラルな状態だ。
いや、目だけはキラキラ輝いているけれど、なんていうか、純粋な好奇心が溢れ出ているような感じで…。女性キラーの2人を前に平常心でいられるのって、ある意味、凄いことなのかもしれないと思う。


美作さんが加わってから、その場の雰囲気はなんとなく和やかなものになった。さすが、あたし達の兄貴分。
西門さんは先ほどの質問の答えを追求することはせず、あたしと類のことを聞いたり揶揄ったり、凛子さんとの会話を楽しんだりしていた。美作さんは仕事や最近の趣味に触れ、絶えず面白い話題を提供してくれた。
あたしも、凛子さんも、よく食べ、よく笑った。




どれくらい時間が経った頃だろう。
あたしの変調に気づいて声をかけてくれたのは美作さんだった。

「牧野。大丈夫か?」
「……え?」
「頭がフラついてる。酔ったか?」
言われてみれば、かなり頭の芯がぼんやりとしている。視界も微妙に揺れていて、体がだるくて、猛烈に眠い。飲みすぎたつもりはなかったけれど、知らぬ間に酔いが回っているみたいだった。

「うーん…。そうかも…」
「相変わらず弱いな。まだ2杯も飲んでないだろ」
呆れたような西門さんの声が、耳の中でボワワーンとエコーがかって聞こえる。
「しばらく…飲んでなかったから、かなぁ…」
「今週は仕事が忙しかったから、疲れが出たのかもね」
隣の凛子さんが、自分の方に凭れさせるように優しく肩を抱いてくれるので、あたしは黙って身を預けた。

気分は悪くない。ただ、ふわふわとした浮遊感があるだけ。
実を言えば、このところずっと寝不足だった。目を閉じるとそのまま眠りに落ちていきそうになるので、必死にこらえる。


鞄の中でスマートフォンが振動している……ような気がした。手探りで機器を探し当てるけれど、鞄から出したところで誰かにそれを取り上げられる。
虚しく宙を掻くあたしの手。

大丈夫だよ、という凛子さんの声がする。
あたしは睡魔に負けて、そのままウトウトとし始めた。




大きくなる周囲の声。
近づいてくる誰かの足音。
頭上で交わされる会話。
…頬に触れてきた大きな手。


この手が誰のものなのか、あたしは知ってる。


帰るよ、と声をかけられ、ふわっと体が浮く感覚がした。
大好きな香りに包まれ、ホッとして頬を摺り寄せる。
これは誰なのかを確信しているのに、どうしても目が開かない。ギリギリで保っていた意識はストンと落ち込み、そこから先のことはまったく分からなくなった。






いつも拍手をありがとうございます。応援を励みに頑張ります(*^-^*)
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2 Comments

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2021/01/15 (Fri) 22:05 | REPLY |   
nainai

nainai  

と*****様

こんばんは。
いつもコメントありがとうございます(*^-^*)

つくしを迎えに来たのは言わずもがなの…ですねw
お姫様抱っこについての雑学。ネットによれば、持ち上げられる体重のボーダーは55㎏くらいだそうです。体重差は15㎏ほどあればよい、とも。公式データではつくしは48㎏、彼は65㎏。難なくクリアできますね。意識のない人間を横抱きにするのは至難の業ですが、ついつい書いてしまうシチュエーションです。

あきらくんの再登場でした♪ 喜んでいただけたようで何よりです(#^^#) 物語はゆっくりペースで進んでいますが、徐々に深い部分へと踏み込んでいきます。今夜の更新もお楽しみください。

2021/01/16 (Sat) 22:21 | REPLY |   

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