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Marbling Orange ~10~

Category『Marbling Orange』
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~Tsukushi~


Pi・Pi・Pi  Pi・Pi・Pi  Pi・Pi・Pi

…どこかでアラームが鳴っている。
ぼんやりしているうちに音は徐々に大きくなる。
でも、うちの目覚まし時計、こんなに大音量だったっけ?

「う~ん…」

音のする方に右手を伸ばして出処を探ると、硬くて四角い感触が指先に触れた。上の出っ張りをパチンと押して、アラームを解除する。
ぼんやりと開けてきた視界には、まだ薄暗いままの天井が見えた。目に留まったのは、天井からぶら下がった流線型のモビール。スタイリッシュな銀のフォルムがいい。すごくお洒落。


…あれ?
こんなの、うちになかったよね。
あたし、まだ夢見てる?


もう一度目を閉じて寝返りを打とうとすると、後ろからぎゅっと抱きつかれて動けない。
ギョッとして一気に覚醒。
背中に感じる体温。穏やかな呼吸。
誰かの腕の中で寝ていた事実をようやく認識する。

恐る恐る目を開けて辺りを見渡すと、そこは見知らぬ部屋だった。
あたしの体に巻き付いている腕。その重み。
男物のナイトウェア。知らない香り。
あたしは、瞬間的にパニックに陥った。



誰…っ!?
あたし、なんで…っ!?


一旦、落ち着こう…。
昨日はどうしたんだっけ?
凛子さんとご飯食べに行って、偶然会った西門さんに店に連れていかれて、そこに美作さんも合流して…。みんなでいろいろな話をして、楽しい時間を過ごして、それから…。

…あぁ、そうだ。
美作さんに大丈夫かって訊かれたんだ。酔ったのかって…。
あたし、なんて答えたっけ?
えーと、それから。
それから…。


何も、思い出せない…っ!!


自分の着衣を検めてみると、上は昨日のシャツを着ていた。第二ボタンまで緩められている。でも下はショーツ一枚なのに気付いて、再びショックを受ける。あたしのスーツの上下は、ベッドから離れた床の上に無造作にたたんで置いてあった。


あれ、あたしが脱いだの? 脱がされたの?
この人、西門さんか美作さんのどっちかだったりする?
あ、あ、あり得ないし…。

心臓がバクバクと波打っていた。冷や汗が止まらない。
こんな事態を招いてしまった自分が信じられない。


どうしよう!
あたし、どうしたら…っ。
類になんて言って謝れば…っ!!



「…どうもしないでいいよ…」
唐突に発せられた背後からの呟きに、あたしは大きく身を震わせた。それは、口から心臓が飛び出るかと思ったくらいの驚きだった。
「デカい独り言…」
クックッという忍び笑いが続く。

―この声。
嘘。
なんで?

「落ち着いて。あんたを連れ帰ったのは俺だよ」
「…………るい?」
「そう、俺」

…待って。
あたし、まだ寝惚けてる?
類が帰国したなんて聞いてない。
でも、これは確かに彼の声…。

安堵やら不安やら疑念やら…。様々な感情が雑多に入り混じって動悸が激しい。混乱状態のあたしを宥めるように、大きな手が頭を撫でた。

「帰国を知らせるメッセージを送ったつもりだったのに、送信できてなかった。ごめん」
「…類なの? …ホントに?」
「こっち向いて確かめたらいいじゃん」



彼の腕の中でぐるりと反転。
小窓から差し込む、まだ青いままの朝の光が、端正な顔を仄白く浮かび上がらせている。そして、そこにある穏やかな微笑…。

―間違いない。

ここにいるのは類だ。
あたしを抱きしめていたのは類だった。
よかった…。ホントによかった…。

その事実を理解した途端、目頭が熱くなって涙が溢れ出た。
泣いているのを見られたくなくて、両手で顔を覆う。

「なんで泣くの」
「…だっ…だってっ……目が覚めたらワケ分かんなくって……すごく不安で…っ」
「俺が迎えに行ったこととか、ここに来たこととか、全然覚えてない?」
「うん……」

あぁ、大失態だ。
深くて長いため息が、ひとつ。

「しばらく禁酒だからね」
「ごめん…。そうする…」
「体調はどう? 気分悪くない?」
「平気…」

頭の中がごちゃ混ぜで、でも類に会えてホッとして、とにかく涙が止まらない。類はさめざめと泣くあたしを抱き寄せ、優しく背を撫でてくれた。いつもと違う石鹸のような淡い香りと、彼の柔らかな体温に包まれて、すごく心地よかった。



しばらくすると、ようやく状況が飲み込めてきた。
今日は金曜日。時刻は午前6時45分。ここは類の自宅マンション。
昨夜、あたしのスマートフォンを通じて、類と話をしたのは美作さん。
類が店まで迎えに来て、眠りこけたあたしを連れ帰ってくれたらしい。

…ちょっと待って。
あたし、お風呂に入ってない。
こんな汚いままなのに、類にハグしてもらうなんて申し訳ない。


出社までに、自宅に帰って戻ってくる時間はない。
シャワーを借りたいと申し出ると、何でも好きに使って、と返された。あたしの服も何着か準備してあるから、隣の部屋のクローゼットから適当に選んでくれていい。迎えの車は8時に来る。朝は一緒に行こう、と。

恥ずかしいやら、情けないやら。
まだ寝るという彼を置いて脱兎のごとくベッドを飛び出し、シャワールームに向かう。彼の言う通り、そこにはありとあらゆるアメニティグッズが完備されていた。類のあの優しい香りは、ボディソープのそれと同じだった。



*********



「牧野さん、ちょっと…」
出社するやいなや、あたしを捕まえて無人の応接室に連れ込んだのは凛子さん。その顔は真剣そのものだ。
「昨日あれから大丈夫だった? 具合は?」
「ご心配をおかけして申し訳ありません。ぐっすり眠ったので体調は問題ないです」
「は~。それなら良かった…」

凛子さんは、あたしがお酒に強くないことを知っている。それでもカクテル2杯で酔って眠り込んでしまうとは思ってなかった、久々に焦ったと心情を吐露された。
あたしは平身低頭で謝るしかない。


「店に迎えに来た時の花沢さん、すごーく心配そうな顔だった」
「…えぇ」
「牧野さんを抱きかかえた姿はもう貴公子そのものでね。くぅーっ! 愛されてるわねー!」
「…えっと……はい…」

顔に熱が集まっていくのが分かる。
…恥ずかしい。
あたし、そういう状態で連れ帰られたんだよね。
改めて反省。…いや、猛省。

「噂のF4を3人纏めて拝めるなんて眼福ものよ! 牧野さんにはホント感謝してるわー」
そう言って、相手はカラカラと笑う。
「凛子さんは落ち着いていましたね。あの人達のオーラにも全然動じていなくて…」
あたしがそう言うと、彼女は意味深な笑みを見せた。
「イケメンは観賞に限る。これ、人生における私のポリシー」

…つまり、過去、イケメンと何かあったんだな。
凛子さんは美人だし、明るく積極的な性格なので、きっと恋愛経験も豊富なんだろうなぁ。


唐突にポンと両肩に手を置かれる。
「花沢さんと頑張って。チャンスは大事にね!」
元気な励ましの言葉に、あたしは首を傾げた。
「……あの……チャンスって?」
「何って……あぁ、覚えてない? 西門さんの際どい質問にもスラーッと答えたから、今思えばその辺りから酔ってたのね」
…際どい質問って、何。
嫌な汗をかいていると、凛子さんはあっけらかんと言った。
「花沢さんとはまだシてないんでしょ? タイミングが合うといいわね」
「………っ!!」

…猛烈に恥ずかしい。さっきの比じゃないくらい。
あたしってば、そんなことまで暴露を…。
今日は早朝から蒼くなったり赤くなったり、ホントに忙しいや。






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