FC2ブログ

1-25

Category第1章 紡いでいくもの
 0
花沢家のご両親への挨拶が済んだ翌週、類は千葉にいるあたしの両親の元に挨拶に来てくれた。
あたしは、類との交際を、二人にはあえて伝えていなかった。
道明寺と付き合っていた頃、分を過ぎた大きな夢を見せてしまったために、身を持ち崩してしまった両親…。彼らに同じてつは踏ませたくなくて、あたしは類を連れていくその日まで詳細を伝えなかった。
正装をした類が畏まって挨拶をし、『つくしさんをください』という定番の台詞を言って二人に頭を下げたとき、彼らはそれこそ飛びあがらんばかりに喜んだ。

どっちかが「玉の輿~っ!」と叫びやしないかと、あたしは密やかに案じてもいたけれど、二人は心からあたし達の婚約を喜んでくれている様子だった。
後から聞けば、あたし達のことは進からすでに報告を受けていたらしい。
「絶対に邪な目で類さんを見ないようにね!」という進のありがたい金言を守ってくれた両親は、一切そういった素振りを見せずに、ただただ喜びだけを前面に押し出してくれたので、あたしは安堵感から涙をこぼしてしまった。

―まぁ、本心では、絶対そう思ってたとは思うんだけどね…。
突然のあたしの涙に、パパがまずつられて、続けてママがつられて、気付けば牧野家の三人で抱き合って泣いてしまっていた。類はそんなあたし達の、ちょっと滑稽な姿を温かく見守ってくれていて、こんなあたし達とペースを合わせてくれる彼に改めて感謝したい気持ちだった。


後日、花沢邸で両家の顔合わせをし、婚約の儀を執り行ってあたしは類と正式に婚約を交わした。
パパとママの緊張があたしにまで伝播でんぱして、牧野家はガチガチに固くなっていた。その中にあって、一番冷静だったのは進だったと思う…。
類は、「花沢物産御曹司の婚約者」という大仰おおぎょうな扱いをあたしが受けないで済むように、花沢家からの公式な発表は控えてもらうようにとご両親に頼んでくれた。
類にはしばしば見合い話が持ち込まれていたので、本来なら発表して周囲を牽制する方が、きっと花沢家にとっては楽だっただろうと思う。
それをさせないあたしは不遜ふそんであるように思えたけれど、類はそんなことは意にも介さず、ただあたしが気負わずに、自分の夢を追求できるようにと万事取り計らってくれた。



仲間たちへの婚約の報告は、11月末の滋さんの結婚式の日にまとめてさせてもらった。メールや電話で簡単に報告するより、みんなには直接自分達の口から伝えたかったから。
「マジでかっ?」
「やったなぁ、類! 牧野!」
挙式が始まるまで待つようにと用意された控室には、あたしたち6人しかいなかった。類が報告をするなり、美作さんが類の肩に腕を回して、そのうちに西門さんが腕で彼の首を絞めるようにする。類は嫌がる素振りを見せていたけど、その顔はかすかに笑っていた。
あたしの左薬指に光る婚約指輪は、美しいカッティングのダイヤモンドリングで、類がフランスからオーダーメイドで取り寄せてくれたものだった。

「先輩っ! おめでとうございます!」
「つくし、おめでとう! 良かったね!」
桜子と優紀があたしを代わる代わる抱きしめて、祝辞を述べる。二人には春から類と交際を始めたことは報告していたので、西門さん達ほどの驚きはないようだった。
「ん? 桜子達はあまり驚いてねぇな」
「えぇ。交際されていることは存じていましたし。花沢さんなら結婚もセットでお考えかと思いまして」
桜子は嫣然と笑む。

「…類は、俺達には牧野と付き合ってることすら隠してたんだぜ? ひどくね?」
西門さんの言葉に、皆の視線が類に集中する。類はまったく悪びれもせず、しれっとした顔で答えた。
「…邪魔されたくなかったし」
「ほとほと失礼な奴だなぁ。誰が邪魔なんかするかよ」
「親友をなんだと思ってんだよ」
「親友というより…悪友?」
美作さんが振り下ろした拳を、類はひょいっと避けて笑う。


西門さんはニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべて、あたしに近づいてきた。
―あぁ、嫌な予感…。
「で? 鉄パンを脱いだ感想は?」
―やっぱり、この質問かっ。エロ門めっ!
「き、聞こえない…」
あたしがツンと顔を反らせると、西門さんはあっさり類に話を振った。
「で、鉄パンを脱がせた感想は?」
「なんでつくしが初めてだったって知ってるの?」
類が真面目にそう返したので、あたしは顔から火を噴きそうだった。
―る、る、類っ! そこは質問返しじゃないでしょっ! 
羞恥に耐えられなくて顔を覆ってしまったあたしをよそに、男どもは勝手に話を続ける。
―なんてデリカシーのない奴らなのっ!

「なんでって…見れば一発じゃん。司との間でなんかあったら、もうちょい色気が出てもよさそうなもんだけど、そんなの皆無だったし」
「だから俺らの間では、牧野は『まだ』って意見が一致してたんだ」
「へぇ…」
類が小さく笑う気配。
「じゃ、いまは色気が出てるからってこと?」
「「そういうこと」」
西門さんと美作さんの声が重なる。
「だってさ。…よかったね」
…あたしの肩を抱き寄せる類の手を、きつく抓ってやりたいとすら思った…。


こういう会話には元より参加しない優紀はともかく、ちっとも助け舟を出してくれない桜子に恨めしげな目線を送ると、桜子はなぜか剣呑な目つきであたしをじっと見つめていた。
―あれ?
「なに? 桜子」
「先輩、道明寺さんとは、結局一線を越えなかったんですよね。あんなに協力して差し上げましたのに…」
―よりにもよって、その話なの? …もうっ、桜子っ。
あたしは動悸が治まらず、思わず優紀に目で助けを求めてしまう。
優紀は、やれやれという顔をした後でおもむろに声を発した。
「みなさん、つくしで遊ぶのもそのくらいにしていただけますか? 式が始まる前につくしが卒倒しちゃいますから」
「優紀~っ」
あたしは類の腕をすり抜けて優紀の元へと駆け寄る。

優紀はあたしを励ますようにニコッと笑んで、類にぴしゃりと言ってくれた。彼女は看護学校をもうすぐ卒業する。F3相手に物怖じしないだけの度胸も据わっている。
「花沢さん、つくしとの婚約が嬉しいのは分かりますけど、惚気はほどほどにお願いしますね」
類は、優紀とあたしを交互に見た後、にっこりと天使のような微笑を浮かべて応えた。あたしはともかく、優紀までもが顔を赤くするものだから、結局は西門さん達にまたからかわれてしまった。
―だから、その笑顔、破壊力が凄まじいんだってば…っ。


滋さんの純白のウェディングドレス姿は想像以上に美しく、そして可憐だった。
モデルのようなスタイルの彼女を魅せるのに、これ以上はないほどの趣向が尽くされ、このドレスをデザインした人の技量をあたしは思い知る。あたしはドレス専門のコースを履修していないけれど、滋さんの笑顔を見ていると、その道も大きなやりがいがあっただろうなぁと思った。
神父の前で永遠の誓いを立てた滋さんは、本当に幸福そうだった。夫となったジョシュさんは、そんな滋さんを蕩けそうなほど優しい眼差しで見つめていて、あたしは二人がいつまでも幸せでいられるようにと、一心に祈りを捧げ続けた。


「で? 二人はいつ式挙げるんだ?」
披露宴会場で指定されたテーブルにつき人心地つくと、唐突に西門さんが話を振ってきた。隣に座った類は、あたしに「いい?」と窺うような目線を寄こした後で代わりに答えてくれる。
「非公式に内輪でやる。入籍後のGWあたりかな」
「東京で?」
「まだ決めてない」
だよな、と呟いた後で、西門さんはあたしに目線を振る。
「お前、あと一年半も類を待たせるんだな」
「えっ? …うん」
―でも、一般的に考えても、23歳と24歳の結婚って早い方だと思うんだけどな…。
滋さんが今、23歳であることを考えると、上流階級の人達にとって早婚は珍しいことではないのかもしれない。

あたしがそう考えていると、
「俺はいますぐ入籍してもいいけど」
類があたしを見ながらそう呟き、周囲の耳目をさっと集めた。
―そ、それはちょっと…。
「…でも、俺の両親もそれには賛成しかねるみたいで」
「まぁな…」
「そうですわね」
「牧野がまだ学生だしな」
先刻のように勝手に話が進められていきそうな雰囲気に、あたしは話の転換を狙って滋さんのことを切り出した。

「そういえば、滋さんがいつ日本を発つか、具体的に誰か聞いてる?」
「確か年末までには、というお話でしたよ」
それには桜子が答えてくれる。
「その前にさ、みんなで送別会をしてあげない? 時期的に無理かな?」
12月だしなぁ、という西門さんのぼやきと、出張がな、という美作さんの呟きが同時に返ってくる。類も少し考え込む様子だった。
「じゃ、女同士で盛り上がろうか」
と、桜子と優紀に話を振れば、二人は快く応じてくれた。

もう独身ではなくなってしまった彼女だけど、日本を離れる前に最後のパジャマパーティーもいいのかもしれない。
そうこうするうちにアナウンスで披露宴の開始が宣言されて照明が落ち、やがて滋さんとジョシュさんが眩い光の中に姿を現した。ひな壇に向かう二人がテーブルの近くを通り過ぎるとき、滋さんがあたしに向けてウインクしたように見え、あたしは大きな拍手と満面の笑みでそれに応じた。




ブログ村のランキングに参加しています ポチッとお願いします☆


拍手ありがとうございます。いつも励みにしています♪
関連記事
スポンサーサイト



0 Comments

Post a comment