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Category第1章 紡いでいくもの
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翌年の3月初旬、地道な努力の甲斐あって、進は第一志望の大学に合格した。
合否は大学のホームページでも確認できたので、発表の時刻になると二人で一緒に確認をした。合格が分かるとあたし達は大きな声を上げ、手を取り合って喜んだ。
同じ頃、両親も大学の掲示板の前に立ち、進の受験番号を確認してくれていた。
番号がないはずはないのに、パパが番号を見間違えてしまって掲示がないなんて言うものだから、その場に行けないあたし達はすごく焦った。…ホント、笑い話だ。
進の番号は間違いなく掲示されていて、後日大学に入学手続きに赴き、こうして卒業後の進の進路が確定した。

それは同時に、あたしと類の同棲生活の始まりを意味していた。
進の合格を予見していたのかどうかは分からないけど、類はあたしの専門学校からほど近いマンションの一室を新居に決め、家財道具や日用品などの準備を進めてくれていた。
センスのいい彼らしく、選んだものはシンプルだけど洒落たデザインのものばかりで、さらに必要なものは暮らしながら揃えていこうということになった。


3月下旬、進の卒業祝いのためにパパとママを東京に呼び、ひさしぶりに家族全員で食事に出かけた。パパは品種改良の野菜の出来がいいことを自慢気に話し、ママは進と再び一緒に暮らせる喜びを語り、進は「合格はみんなのおかげ」と感謝しきりだった。
あたし達は大いに食べ、話し、笑い合った。
食事会の後、仕事帰りの類があたし達に合流し、進の入学祝いとして腕時計をプレゼントしてくれた。高級なブランド物だったらどうしよう、と内心慌てたあたしに、類は、「一般的な物にしたから」と笑いながら説明してくれた。

贈られた腕時計は、あたし達でもちょっと頑張れば手にできる、いわゆる「一般的」な高価もので、彼の価値水準もきちんと牧野家ナイズされていると思うと、どうにも可笑しかった。
アパートには布団がなく、泊まる場所がないから千葉の自宅まで帰る予定でいた両親に、類は手早くホテルを手配してくれた。
「パパさんもママさんも、たまにはゆっくり体を休めて。マッサージもつけといたからね」
という彼の配慮に、あたし達は深く感謝した。


類はあたしと進をアパートまで送ってくれ、明日も早いからとうちには上がらずにそのまま帰っていった。
「姉ちゃんは幸せだね。…あんな優しい人、他にはいないよ」
うん…と顔を赤くして俯くあたしを、進がからかう。
「俺が合格してよかったね。…晴れてラブラブ生活じゃん?」
「…もうっ! からかうんじゃないっ」
進の背中を小突いて、あたしはチラリとカレンダーの丸印を見る。
一週間後にはこのアパートを退去することが決まっていた。
進は千葉の両親の元へ、あたしは類の元へ行く。
こうして進と二人で暮らすのもあとわずかだと思うと、どうにも感慨深かった。



アパートから新居となるマンションへ運び込む、あたしの荷は少なかった。
主な生活用品は処分するか、進に持っていってもらったし、その進の荷でさえ少なすぎて単身パックで事足りてしまったほどだ。
すべての荷が運び出され、がらんと何もなくなった部屋に掃除機をかける。
4年以上もの期間を暮らしたその部屋を出るときは、後ろ髪引かれる思いがした。
…あたしは、この部屋で、様々な思いを抱きながら夜を過ごしたよね…。


「姉ちゃん」
ふいに進の声がして、あたしははっと声の方を見た。
「もう行こう? 運転手さんも下で待ってくれてるよ」
「…うん」
一階の角部屋に住む管理人さんにアパートの鍵を返却し、今までお世話になったお礼を渡して挨拶を済ませた。おじさんは、「二人とも元気で」と、笑って送り出してくれた。
本当は類も来てくれることになっていたけれど、昨晩急な仕事が入り、彼は名古屋に出張していた。代わりに運転手の宮本さんを手伝いに寄こしてくれて、あたしと進の荷物の最後の搬出を手助けしてもらえた。

宮本さんは、最寄りの駅のロータリーまで進を送ってくれた。
「じゃ、行くね。姉ちゃん、いろいろありがとう。類さんによろしく伝えて」
大きな荷物を背負い、進は地面に降り立つ。
「大学でも頑張ってね! パパとママによろしく」
「姉ちゃんも無事に卒業できるように頑張んなよ」
4月には、あたしは専門学校の最終年度を迎える。
「あと1年、頑張り抜くから!」
あたしは笑って手を振った。進も笑顔で手を振ってくれた。
その後ろ姿は、改札に向かう人波の中に、あっという間に紛れて消えていった。 



新居には足りない物などないかのように、ありとあらゆる物が揃えられていた。
冷蔵庫の中も二人分とは思えないほどの量の食材が入っていて、あたしはびっくりしてしまう。類は夕食までには帰ると連絡をくれていたので、あたしは買い置かれた食材の中から類の好きそうな食材をチョイスして料理をした。
疲れているときは和食かな、と思い、味噌汁から作り始める。
夕食の準備を終えて、彼の帰りを静かに待っていると、じんわりと温かな気持ちがこみあげてきた。
―幸せだな。類の帰りを待てるなんて。
くすぐったいような、晴れがましいような気分のままソファで膝を抱えていると、玄関の方から物音が聞こえ、あたしはドクンと胸を高鳴らせた。

慌てて玄関先に迎えに出ると、類が大きな花束を抱えて入ってくるところだった。
「…お帰りなさい、類」
その一言を発するのにとても緊張した。
これからは、それがあたし達の日常になるんだと思うとドキドキしてしまう。
お互いが、帰るべき場所になる。今日はその最初の日なんだから…。
類も嬉しそうに目元を和ませて、あたしに挨拶をする。
「ただいま、つくし。…はい、これ」

差し出されたのは真っ赤なチューリップの花束。
初めて彼から送られたのもこの花だった。
チューリップの花言葉は『思いやり』。赤色だと、『愛の告白』、『真実の愛』。
「ありがとう。すごく…嬉しい…」
花はどれもまだ瑞々しく、葉先までピンと張っている。あたしは嬉しさのあまり、まだ開ききっていない紅い花弁に、思わずチュッとキスをしてしまった。
「お腹すいたでしょ。早く食べよう」
花束を抱きしめたあたしの言葉に、類は静かに頷いた。


その夜、あたし達は時間が経つのも忘れて何度も愛し合った。
いままで自由にならなかった恋人同士の時間を埋め合わせるように。
彼があたしに触れるように、あたしも彼に触れて。
互いの愛情を与え合い、愛の言葉を囁き合い、幸せだと笑い合った。


すべてが順風満帆に思えた。
どこかに落とし穴があるんじゃないかと、暗い予感に慄いてしまうほどに。

だけど、信じていた。
ただ、信じていられた。
あたし達二人でなら、どんなことでも乗り越えていけるのだと。



            ~第1章 紡いでいくもの   完~




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2 Comments

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2018/06/27 (Wed) 01:36 | REPLY |   
nainai

nainai  

刀様

ご訪問&コメントありがとうございます。

やっとこさ第1章完です。すでに長かったですよね…。
…もう幸せだから、ここで終わりでいいんじゃ?と自分でも思うくらいです(^^;)

今夜第2章についてのアナウンスを行います。
お知らせは通常通りに午後10時UPです。よかったらそちらもご覧くださいね。

更新はこのペースで続けていこうと思います。自分にはちょうどいいみたいです。
頑張ります! 今後ともよろしくお願いいたします。

2018/06/27 (Wed) 06:14 | REPLY |   

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